『リバーサイド・チルドレン』梓崎優(東京創元社)★★★★☆

 例えばニュースで知る外国の出来事は、外からその国を評したものなので、梓崎作品のように内からの視点で描かれると、その視点の落差だけでミステリの驚きを味わうことができます。ごみの山を糧に生活する少年たちの物語が、外から見ればニュースで見覚えのあるあの事だったとは――。ゴーレムの物語も、いわばこの視点と異文化のバリエーションでしょう。

 それだけで読ませる筆力があるだけに、梓崎作品の特徴でもある異文化に根ざした犯罪の動機は、むしろ蛇足とさえ思えてしまいました。

 デビュー作「砂漠を走る船の道」こそ、日本人にもリアルを感じさせる普遍的とも言える動機でしたが、その後「叫び」ではその民族特有の生き方に根ざした動機になり……本書ではとうとう、文化云々ですらない一個人の狂気の論理が動機となっていました。「凍れるルーシー」にもその萌芽はありましたが。

 けれど――「蛇足」と書いたとおり、肝はそこではありません。ストリートならぬリバーサイドを根城にするチルドレンの、人間らしく生きようとするあがき――警官に撃ち殺されることに怯え、ごみの山から売れるものを拾い集めて二束三文で売り払い、「自由」ためにホームを拒絶する。どんなに楽しげに書かれたってきれいごとではない地獄のような生活のはずなのに、それが魅力的に見えてしまうから恐ろしい。

 「傘をさすのは観光客」――鋭い観察眼から思いついた「名言」が口癖の、リーダーのヴェニイ。足が悪く口のきけないソム兄さん。副リーダーで短気なティアネン。ヴェニイの金魚の糞ハヌル。美少年のフラワー。卑怯で小ずるくて神経質なコン。そして日本人の少年ミサキ。これだけ揃っていれば、そりゃ楽しそうですよねえ。まるで『ワンピース』か何かの仲間たちのよう。

 かつて少年と「監禁」されていた経験を持つ「旅人」が登場します。あのあと無事に快復したのですね。

 カンボジアの地を彷徨う日本人少年は、現地のストリートチルドレンに拾われた。「迷惑はな、かけるものなんだよ」過酷な環境下でも、そこには仲間がいて、笑いがあり、信頼があった。しかし、あまりにもささやかな安息は、ある朝突然破られる――。彼らを襲う、動機不明の連続殺人。少年が苦難の果てに辿り着いた、胸を抉る真相とは? 激賞を浴びた『叫びと祈り』から三年、俊英がカンボジアを舞台に贈る鎮魂と再生の書。(カバー袖あらすじより)

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