『ミステリーズ!』vol.74【魅惑の“館”へようこそ 図書館ミステリの誘い】

森谷明子×大崎梢×青崎有吾鼎談 はまかぜ便り」

「事始」森谷明子 ★★★★☆
 ――佐布留のことでお礼を言いに図書館を訪れた秋葉健一は、後輩である司書の日野に、幼いころにあった出来事を話してみた。山で迷った健一は、親戚の直子さんに助けられた。だが元妻の茉莉はその話を聞いて、直子さんが店のお金を着服したという噂は本当だったのではないかと言う。直子さんは山にお金を隠しに来ていたのだろうか。

 秋庭図書館シリーズ最新作。メインとなる謎のほか、健一と茉莉、『風と共に去りぬ』というように、男女の問題が扱われています。鼎談で著者が「スピンオフ」と語っているとおり、健一視点で描かれた作品なので、文子はほとんど出番がなく、能勢さんも単なる謎の解決役止まり、一番出番が多くポイントになるのは後輩である日野でした。昔の田舎と現在、映画と原作、同じようで違っているからわからなかったりすれ違ったりすることもあるようです。
 

「十五秒」榊林銘 ★★★★☆
 ――目の前に銃弾が浮いている。私に尻を向けて。銃弾の周りには赤い飛沫がまとわりついている。私は軌跡をたどり、それが私自身の胸の穴から出ていることに気付いた。「お迎えに上がりました」二足で立っている猫が現れた。「走馬灯タイムというやつです。いきなり後ろからズドンですから、長目に時間をご提供しようと」 つまり振り向けば犯人がいるのだ。残された寿命は十五秒。その間は自由に現実と走馬灯を行き来することができる。

 第12回ミステリーズ!新人賞佳作。死ぬまでの十五秒間で何ができるか――何よりもまず、発想が面白い作品です。被害者側には考える時間はたっぷりあるけれど実行する時間は十五秒しかなく、犯人にとっては十五秒はそのまま十五秒という状況のなか、二重三重に仕掛けられた被害者の復讐と犯人告発と、それに対応する犯人側の機転との、駆け引きに目が離せません。被害者にとっても犯人にとっても納得できる落としどころも好感が持てます。
 

「ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション 魅惑の翻訳ミステリ叢書探訪記(25) 海洋冒険小説シリーズ編 その2」川出正樹

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