『エンドロール』鏑木蓮(ハヤカワ文庫JA)★★★☆☆

 『しらない町』文庫化改題。

 フィルムの女性に会うまでは面白かったのですが、それ以降が尻すぼみでした。ミステリ作品ではないのでそういった類の意外性もないのです。関係者が一様に口を閉ざしたのは、詰まるところはただ単に故人の気持を尊重したかったから、でしかありません。戦争や孤独死といった「死」と絡めてあるから身につまされるということはありますが、あまりにもきれいにまとめすぎてシラけてしまいました。せっかくの感動的な話が道徳の話になってしまったよ。

 白眉は映画の素晴らしさを文章で伝えるシーンでした(P.51)。「白い花びら」の色彩や水音、「チェンジリング」で画面を通して伝わってきた心拍数。老人の残したフィルムの女性そのものについてはいまいち伝わって来なくても、これらの映画を褒めることを通して、そのフィルムが素晴らしいことは伝わって来るのです。表向きは素晴らしいフィルムを撮った老人に興味を持って――読者向きには、老人が残した謎の言葉の意味を追って――なのですが、上記の理由でフィルムに映った幻の女をさがす旅でもあり、だから目指す女性にようやく会えたところがクライマックスなのでした。

 映画監督になる夢破れ、故郷を飛び出した青年・門川は、アパート管理のバイトをしていた。ある日、住人の独居老人・帯屋が亡くなっているのを見つけ、遺品の8ミリフィルムを発見する。映っていたのは重いリヤカーを引きながらも、笑顔をたやさない行商の女性だった。門川は、映像を撮った帯屋に惹かれ彼の人生を辿り、孤独にみえた老人の波瀾の人生を知る。偶然の縁がもたらした温かな奇跡。(カバーあらすじより)

  


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