『ナイトランド・クォータリー』vol.05【闇の探索者たち】

「Night Land Gallery ウィリアム・ブレイク」沙月樹京

「魔の図像学(5) 聖ゲオルギオス」樋口ヒロユキ

菊地秀行インタビュー 我が友、魔界のヒーローたち」植草昌実
 

「目隠し頭巾」ジョン・ディクスン・カー/植草昌実訳/藤原ヨウコウ画(Blind Man's Hood,Carter Dickson,1940)★★★★☆
 ――ロドニー・ハンター夫妻がバクスター家の屋敷を訪れると、家の者はなく、玄関が開け放たれていた。推理作家のロドニーは、使用人らしき女から、かつてここであった殺人事件の話を聞いて興味を持った。

 カーの名作ですが、怪奇ものという印象のあったこの作品、読み返してみると不可能犯罪の結構も取られていました。明かりという手がかりから真相が導き出されるなめらかな手順は、なるほどミステリとしても優れています。
 

「闇の探索者たち」

「死と蜜蜂」ニール・ゲイマン/牧原勝志訳(The Case of Death and Honey,Neil Gaiman,2011)★★★★☆
 ――背の高い老齢の白い異人が高《ガオ》じいさんの家を訪れた。「私は蜜蜂の研究をしています。あなたは珍しい大きな黒い蜜蜂を飼っているそうですね」。異人は夏のあいだそこに泊まり、研究を始めた。

 SF・ファンタジー作家ニール・ゲイマンによる、引退後のホームズを扱った作品です。「這う人」の真相にも言及されているこの作品、当然のことながらSF的な結末を迎えるのですが、この作品で迎えたホームズの最期は、エルビスなどの伝説に対する洒落っ気たっぷりのアンサーにもなっていたと思います。
 

嗜血症患者」ダイアン・フォーチュン/小椋姿子訳(Blood Lust,Dian Fortune,1926)★★☆☆☆
 ――依頼人が精神病の専門医タヴァナー博士に語ったのは、婚約者のドナルドのことだった。鶏小屋が騒がしいため外に出てみると、鶏たちは喉を裂かれていました。ドナルドの姿を見かけたので駆け寄ると、抱き寄せて顔を下ろしてきました。キスするためではなく、喉に噛みつくために。

 〈シャーロック・ホームズのライヴァルたち〉の時代のオカルト探偵タヴァナー博士の活躍する一篇です。吸血鬼ものではなく、吸血性の寄生という心霊科学的な解明に、単なる怪奇ものではないオカルト探偵ものの面目躍如を感じます。
 

「ホラー・ファンのためのミステリ――恐怖と論理の狭間で――」笹川吉晴
 

「ひふみゆらゆら」小林正親(2016)★★☆☆☆
 ――江戸の往来で市子(イタコ)を生業としていた百々は、呼び止められて武家屋敷に招かれた。殿のお母堂が、娘を呼んで欲しい、という。「御名前は?」とたずねても、「忘れてしもうた」としか言わない。

「オカルト探偵小説/怪奇ミステリ・ガイドブック」牧原勝志
 

「泣き叫ぶ女」ウィリアム・ミークル/甲斐禎二訳(Carnacki: The Banchee,William Meikle,2015)★★☆☆☆

 幽霊探偵カーナッキもののパスティーシュ
 

「アリス&クロード・アスキューと思弁的実在論岡和田晃

「未邦訳・オカルト探偵小説セレクション」植草昌実
 

「砂漠の城――ドラキュラ紀元一九七七」キム・ニューマン/植草昌実訳(Castle in the Desert: Anno Dracula 1977,Kim Newman,2000)★★★★☆
 ――私の妻と結婚していた男は、リンダの死を語りながら、涙を流した。「娘が……ラクウェルが誘拐されたんだ――吸血鬼に」。反生命方程式という連中に連れて行かれたのだという。おそらくは咬んでもらうために。

 第1号に引き続き『ドラキュラ紀元』第四部の一挿話が翻訳されました。この分だといずれ一冊まるごと邦訳されそうですね。ドラキュラの死後イギリスを離れてアメリカにやって来た吸血鬼たちを相手にするのは、リンダ、プードル・スプリングス……そう、ロス・アンジェルスのあの私立探偵です。
 

  


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