『烏に単は似合わない』阿部智里(文春文庫)★★★★☆

  松本清張賞史上最年少受賞作にして、異世界ファンタジー&謎解きミステリーです――が、文庫のカバーや帯だけからはミステリであることがわかりませんね。千街氏の書評を読んでいなければ読まずに見逃していたかもしれません。

 表紙からはふわふわファンタジーのような印象を受けますし、内容も一言で言えば「皇太子妃の地位をめぐる鞘当て合戦」なのですが、これが滅法おもしろいのです。

 入内する予定だった姉姫の代わりに宮中に赴いた無邪気な二の姫・あせびが、一癖も二癖もある他の妃候補者たちや宮中の女房たちの洗礼を浴びる――というのは、それこそ少女漫画をはじめとした王道なのですが、出てくる女性たちの政治性に、絵空事ではなく引き込まれました。

 天真爛漫な東家の娘・主人公あせび、姐貴肌の南家の姫・浜木綿、絵に描いたようなタカビーお嬢様である西家の姫・真赭《ますほ》の薄《すすき》、控えめに見えて実は腹黒い北家の姫・白珠《しらたま》、あせびを「おねえさま」と慕う宮家の娘・藤波、嫌味や駆引きはお手のものの女房たち……こうして書いてみると見事なまでにキャラ立ちしていますね(^^。

 やがて、いつまで経っても日嗣の若宮が姿を見せないという異常事態に、盗難事件、女房の失踪……ときな臭くなってきた果て、終盤に次から次へと明らかになる「女の業」のつるべ打ちには打ちのめされました。ほかの何ものでもなく「松本清張賞」であるのもむべなるかな、です。

 すでに続編も刊行中。

 人間の代わりに「八咫烏」の一族が支配する世界「山内」で、世継ぎである若宮の后選びが始まった。朝廷で激しく権力を争う大貴族四家から遣わされた四人の后候補。春夏秋冬を司るかのようにそれぞれ魅力的な姫君たちが、思惑を秘め后の座を競う中、様々な事件が起こり…。史上最年少松本清張賞受賞作。(カバーあらすじより)

  ・[楽天] 


防犯カメラ