同じ別冊太陽『こわい絵本』の姉妹編で、「奇」「異」「怪」「妖」の各「あやしい」の四部構成になっています。
「奇しい」
『よしおくんがぎゅうにゅうをこぼしてしまったおはなし』及川賢治・竹内繭子は、こぼした牛乳が海となって広がってゆくという発想とベタ塗りの可愛い絵が印象に残る作品です。
どうも「奇しい」を通り越して狂気の域に達しているような作品のインパクトが大きかったです。『ぱんつちゃん』はまぐちさくらこ、『ボクのかしこいパンツくん』乙一/長崎訓子はタイトルの時点でアレですが、『うどんのうーやん』『ちくわのちーさん』『こんぶのぶーさん』は、擬人化などまったくされていない「うどん」や「ちくわ」や「こんぶ」が動き回るという、気持ち悪さ満点の作品です。『いちにちおもちゃ』ふくべあきひろ/かわしまななえは、擬人化ならぬ擬おもちゃ化してしまうという、まさに狂気の産物。『おかめ列車』いぬんこはタイトル通り、機関車トーマスならぬ、おかめ列車なのです。どうしてこんなことを思いついたのか、なぜイラスト化してしまおうと考えたのか、常人には理解しがたい力に満ちています。
『でっこりぼっこり』高畠邦生は、「ぼっこり」の反対側は「でっこり」しているんだ、という理屈が秀逸で、それを地球規模で表現してしまう奇想に頭が下がります。
『えほん・どうぶつ図鑑』横尾忠則・穂村弘は、切り抜くことで完成するという、これまた発想が光る作品です。
『ココアは、いかが?』油谷勝海/木村功/奥井一満は、「かがくのとも」シリーズの一冊。ココア缶を持つ少女のラベルのココア缶を持つ少女のラベルのココア缶を持つ少女の……という入れ子が美しい作品です。
『うさぎは月のゆりかごに眠る』鳥毛清は、黒地に金の絵が美しい絵本です。ストーリーなどどうでもよくなるほど、一目で引き込まれてしまう魅力がありました。
『終わらない夜』セーラ・L・トムスン/ロブ・ゴンサルヴェルは、騙し絵による絵本なのですが、レメディオス・バロやマグリットに影響を受けたというゴンサルヴェスの静謐な絵が、恐ろしく美しいの一言に尽きます。
『かようびのよる』デヴィッド・ウィーズナーは、蓮の葉に乗ってカエルが飛んでくる光景が妖しくも美しい。
「異しい」
『絵本古事記 よみがえり』寮美千子/山本じん、好みの絵ではありませんが、衝撃的な場面を実際に見せられてしまうとやはり引き込まれるものがあります。
『にじのみずうみ』坂本鉄男/いわさきちひろは、ウンディーネ(オンディーナ)伝説を絵本化したもの。
『カガカガ』日野十成/斉藤隆夫は、北アメリカ先住民族ウィネバゴ族の神話をモチーフにした作品です。
『人魚のうたがきこえる』五十嵐大介。漫画化の五十嵐大介が絵本も作っていることを知りませんでした。もちろん絵は五十嵐大介の絵そのものです。
『ながぐつボッチャーン』軽部武宏。表紙の絵の主人公がまさか長靴の方だったとは。。。
『くろいながい』おくはらゆめは、くろいながい髪の少女とくろいながい尾の黒猫の話が、横に長い判型で描かれています。
『ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑』『植物図鑑』は、ひところ流行った架空の博物誌の絵本版。動物たちが可愛らしい。
『モーションシルエット かげからうまれる物語』かじわらめぐみ・にいじまたつひこ。これは絵本というよりアートに近い作品のような気がします。
『闇の夜に』ブルーノ・ムナーリ。これは所有していた気がしたのですが、どうやら持っていませんでした。
『カエルのバレエ入門』ドナルド・エリオット/クリントン・アロウッドは、バレエの教則本(なのに、図解がなぜか人間ではなくカエル)。
『アリスの不思議なお店』フレデリック・クレマンは、アリスが店主のお店の話。
「怪しい」
『ことりぞ』京極夏彦/山科理絵は、〈妖怪えほん〉の一作。
『きれいなはこ』せなけいこは、『ねないこだれだ』の著者のおばけシリーズです。
『トリゴラス』長谷川集平。少年の少女への葛藤が怪獣トリゴラスとなってしまう、らしい。ゴジラ映画のポスターのような表紙がいいですね。
「妖しい」
『ろじうらの伝説 古典と新作らくご絵本』柳家喬太郎/ハダタカヒト/ばばけんいちは、柳家喬太郎による新作落語の絵本化だとのことですが、そんなの抜きに、ただただ不気味さに圧倒されます。
『海女の珠とり 第一巻 海士』片山清司/岡村桂三郎は、〈お能の絵本シリーズ〉の一冊。
『おんなのしろいあし』岩井志麻子/寺門孝之、『マイマイとナイナイ』皆川博子/宇野亜喜良は、〈怪談えほん〉シリーズの一冊。
『花さき山』斎藤隆介/滝平二郎、『金曜日の砂糖ちゃん』酒井駒子は説明不要でしょう。
『カラポンポン』しんやまさこ/KYOTARO。コラージュ作家と鉛筆画家の共作です。パンクと静謐が同居しているさまは刺激的です。
『人魚姫』アンデルセン/清川あさみ/鈴木理策。布と糸とビーズによる絵がきれいです。
『ドラキュラ』ブラム・ストーカー/リュック・ルフォール/ブリュチ。これも古典の絵本化ですが、絵がかなり恐ろしく幻想的です。表紙とスチールから判断するかぎりでは、具体的なシーンというよりはイメージを絵にしているように感じられます。
「宮部みゆきインタビュー 心のありようを教えてくれる「あやしい絵本」」
〈怪談えほん〉の一冊である『悪い本』と、絵本と子供の関係について。
「見えない世界を観るために〜チコという名の少女のこと〜」
中江嘉男・上野紀子による〈チコ〉シリーズが、中江嘉男氏の言葉と共に紹介されています。『ペラペラの世界 透明の国のチコ』は凄い。。。