『テニスコートの殺人』ジョン・ディクスン・カー/三角和代訳(創元推理文庫)★★★★☆

 『The Problem of the Wire Cage』John Dickson Carr,1939年。

 殺された男の周りに残されていたのは、被害者であるフランクの足跡と、発見者である元婚約者ブレンダの足跡だけ。このままではブレンダが疑われる――そう思ったブレンダと恋人のヒューは、ブレンダの痕跡を消し去り、警察には嘘をつくことにするが――。

 登場する富豪とその友人の子の、いかにも富豪らしい鷹揚で人を食った態度が癇に障ります(^^;。で、この富豪というのが、「事実」よりも「自分の思い通りに事を進めること」を重視(というよりそれを当然視)する人物なのです。

 真犯人や無実の容疑者が警察に苦しめられたり、被害者や濡れ衣を着せられた人間が真犯人に苦しめられたりするのではなく、まさかそんな方向からの攻撃が待っていようとは。(※その直後に完全に意見を否定されたり、最後に独りよがりな恋心を指摘されたりと、結局はお山の大将だったりするわけですが。)

 とにかくそんなこともあって、初めのうちは真犯人探しよりもブレンダとヒューの二人が身を守ることに焦点が当てられています。

 この「身を守ること」と「不可能犯罪の謎」に気を取られ、読んでいる最中は真犯人は誰でもいいような感じもありましたが、最後に明らかにされた真犯人像は、何よりも犯行方法と密接に関わっていました。(「不可能犯罪の方法」ばかりを探していた人間には完全な盲点でした。)

 また、足跡のない現場で被害者が絞め殺されていて自殺だと思う警察はいないでしょうから、飽くまで(当初は)足跡がないことを知っているのは発見者だけ、(当初の)警察が見た表向きの現場は小さくて重い足跡というちぐはぐな謎だけということになります。

 一応はそういうエクスキューズが用意されてはいるものの、結局は著者が「足跡のない殺人」を演出したいがために、無理に犯人に犯させた無茶なトリック――という印象はぬぐえませんが。

 雨上がりのテニスコート、中央付近で仰向けに倒れた絞殺死体。足跡は被害者のものと、殺された男の婚約者ブレンダが死体まで往復したものだけ。だが彼女は断じて殺していないという。では殺人者は、走り幅跳びの世界記録並みに跳躍したのだろうか? “奇跡の”殺人に挑むのは、名探偵フェル博士。驚天動地のトリックが炸裂する巨匠の逸品! 『テニスコートの謎』改題・新訳版。(カバーあらすじより)

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