『封じられた街(上・下)』沢村鐵(ポプラ文庫ピュアフル)
ぼうっとしていて放っておけないけれど、マモルくんは間違いなく絵の天才だった。落ち葉の模様で彩られた動物殺しに興味を持つのはそのせいだろうか。「すっごい絵だった」マモルくんは落ち葉の形を「絵」と表現した。犯人はまだ捕まっていない。新興宗教やUFOを呼ぶ儀式なんじゃないかという噂はあった。マモルくんがいなくなったのは、それからしばらく経ってからだった。親から出禁をくらった秀平を残し、あたしは一人でマモルくんをさがしにいった……。
妹の春菜がいなくなったのはぼくのせいだ。今日も春菜をさがしている。ボストンテリアのゴンといっしょに。行方不明になった子どもたちはまだ一人もみつかっていない。春菜がみつかるまで家には戻らない。かならずみつけてみせる。橋の下にビニールシートを張りめぐらせて暮らしている日比野というおじさんに泊めてもらった。春菜をさがしていると、やせた子と太った子につけられた。二人は秀平とマモルと名乗った……。
火だ! 秀平は「大事なもの」を持ち出そうとして、煙に巻かれ、集中治療室に入れられる。秀平の容態を気にしながらも、おふみとハジメはもののべ様の正体をさぐるため、市長の奥さんに会いに行った。
どうやら「もののべ様」と呼ばれる憑物に街が乗っ取られようとしているらしいのですが、少なくとも上巻ではもののべ様に面と向かって勝負を挑むのではなく、飽くまで目的は行方不明になった友だちを守るため、行方不明になった友だちや家族をさがすため、であり、その結果として各章の語り手たちがもののべ様と相対することになります。
だから描かれるのも悪対正義の戦いといった大仰なものではなく、友だち探しという縦糸に、家庭環境の問題という横糸がからんだものになっています。不穏なものにつけいられる隙はある――とも言えますが、不安を感じるなといっても感じざるを得ない状況で、絶対に守る、絶対にみつける、という強い気持が爽快でもありました。
上巻はブラッドベリ『何かが道をやってくる』、ストラウブ『ゴースト・ストーリー』にオマージュが捧げられています。
下巻に入ってもののべ様の正体をさぐり直接対決しに行くあたりから急速につまらなくなってしまいました。子どもたちが知恵と力と勇気を合わせて自主的に謎を探り敵を倒す――といった感じではなく、日比野さんの用意したレールに沿って言われたた通りにやっただけという感じで、全然はらはらもわくわくもしませんでした。
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