「宇宙のライカ」久野田ショウ、「太めの女」志村貴子、『娘の家出』6、『S-Fマガジン』2017年6月号

アフタヌーン』2017年6月号(講談社

『青野くんに触りたくて死にたい』6「協力者」椎名うみ
 幽霊という存在に対する、ある意味でまともな対応がようやくなされそうです。……が、二人の蜜月の危機でもあります。

『我らコンタクティ』2「八百屋お七で危機一髪!の巻」森田るい
 まだロケット完成なんて気配はゼロで今回はほとんど飲み屋の女将さんの話なのに、おもしろいです。ロケット発射というメインの芯がひとつあることで、青臭いエピソードもとっつきやすくなってます。

『あやつき』10「伽藍洞」寺田亜太朗
 ウダカの過去に関わる連続殺人がふたたび発生。生き残った被害者にたどり着きますが……?

『発症区』16「パートナー」いとまん
 今回は染谷の過去話です。

「宇宙のライカ」久野田ショウ
 ――ライカは死んだ息子に生き写しのアンドロイドだった。だがアンドロイドであることが世間にバレ、さまざまな事情から宇宙探査に行かされることに。ライカは父親のために秘密裡にもう一人ライカを作り、一人は宇宙に、一人は家族と残る生活が始まった。

 四季賞2017年春のコンテスト四季大賞受賞作。「三途の川でワルツを」の著者です。三途の川とワルツという不思議な組み合わせと比べると、わりとよくある内容がきれいにまとめられていて、個人的にはそこが物足りなく感じました。
 

「太めの女」志村貴子(『ウルトラジャンプ PREMIUM』2017年5月号 集英社
 ――新しく来た家政婦はデブだった。ボクの好みはスレンダー美女だ。これは辞める上杉に向けた、どさくさまぎれの告白だった。上杉が父さんとデキてることは知っていた。助けてあげたいと思ったのに、こわくてできなかった。

 志村貴子の読み切り作品。新しい家政婦が打算的なデブだったり、そもそも主人公がダメ男っぽかったり、単なる切ない思い出にはなりません。その一方でどこまでもしょーもない話のくせにちょっと美しい思い出っぽくもあります。
 

『娘の家出』6 志村貴子集英社 Young Jump Comics)
 最終巻。これまでの登場人物がたくさん出てきてこれまでのエピソードに取りあえずの結末がつけられるので、読み返すのがたいへんでした。さわちんなんて、ちょろっと出てきただけですもんね。りえちゃんとか、えみりちゃんは、読み返してみればすぐに思い出せる印象的なエピソードでしたが。
 

『S-Fマガジン』2017年6月号No.721【アジア系SF作家特集/2017年春アニメ特集】

「アジア系SF作家特集」とは名ばかりで、小説作品に限れば中国オンリー、それもケン・リュウの英訳からの重訳(及びケン・リュウ作品)という手抜きぶりです。「アジアSF」ではなく「アジア系SF」というところがポイントですね。テッド・チャン作品の映画化『メッセージ』などに合わせた企画です。
 

「折りたたみ北京」郝景芳/大谷真弓訳

「母の記憶に」ケン・リュウ古沢嘉通

麗江の魚」スタンリー・チェン/中原尚哉訳

 エッセイでも多くは中華圏SF(テッド・チャン映画含む)と日本SFについて割かれていて、アジアSFはざっと概略を触れられる程度でした。
 

筒井康隆自作を語る(1) 日本SFの幼年期を語ろう」
 出版芸術社筒井康隆コレクションを記念しておこなわれているトークイベントの採録連載。正直言って今月号のなかで一番面白かった。
 

「書評など」
チャイナ・ミエヴィル『爆発の三つの欠片』は銀背。『FUNGI 菌類小説選集 第Iコロニー』は菌類小説アンソロジー
 

「コンピューターお義母さん」澤村伊智 ★★★★★
 ――老人ホームで暮らしている義母は、あらゆるコンピューターをハッキングしてわたしの生活を覗き見して、その結果をメッセージで送りねちねちとわたしを精神的に追いつめていた。パートの先輩にそのことを愚痴るのがわたしの精神安定の手段だった。

 嫁と姑の問題を、現在の介護状況と来たるべき近未来の技術と併せて綴ったホラー作品です。義務感に駆られてでもいるような一部の姑の嫁いびりや、介護の民間参入、警察の民事不介入などを考えると、これに近い現実は完全な絵空事とは言えない未来がやってくるのかもしれません。
 

ディストピアSFのゆくえ」大森望×山形浩生
 『すばらしい新世界』『一九八四年』新訳者による対談。
 

     


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