『崩れゆく絆』チヌア・アチェベ/粟飯原文子訳(光文社古典新訳文庫)★★★★☆

 『Things Fall Apart』Chinua Achebe,1958年。

 アフリカ文学の父と称されるナイジェリア作家の代表作の新訳です。

 意図するとせざるとにかかわらず、現代日本人の目から見ると、第一部はファンタジー小説として読めてしまうようなところがありました。アフリカの現実なんて知りませんしね、著者が目論んでいたアフリカ人の再教育という読みかたはわたしにはできません。

 父親が駄目男だったせいで、「男らしく」という理想を過剰に意識して、楽園のなかでもかなり浮いていた主人公が、そのために楽園を追われ、戻ってからも西洋文明に対し「男らしく」を貫こうとした結果、悲劇に見舞われることになります。男らしくとはいっても、信念といったようなものではなく、ただ単に血が上りやすいだけなので、そういうダメ〜な感じは、むしろ悩みと思想で空回りする欧米文学の駄目主人公っぽくもありました。

 それにつけても驚いたのは、唐突な終わり方です。文明との衝突とかいったような生やさしいものではなく、自然災害のような抗うことさえ許されない圧倒的な力だったのだと思い知らされます。

 古くからの呪術や慣習が根づく大地で、黙々と畑を耕し、獰猛に戦い、一代で名声と財産を築いた男オコンクウォ。しかし彼の誇りと、村の人々の生活を蝕み始めたのは、凶作でも戦争でもなく、新しい宗教の形で忍び寄る欧州の植民地支配だった。「アフリカ文学の父」の最高傑作。(カバーあらすじより)

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