『ヒトリシズカ』誉田哲也(双葉文庫)★★★☆☆

「闇一重」
 ――新小金井交番の管轄では事件らしい事件も起こったことがなかった。警視庁より関係各位。○○にて、銃器発砲事案発生の模様――。俺は自転車にまたがり、現場に向かった。発見者は警ら中の大村だった。アパートの一室で、男が背中から三発撃たれて死んでいた。被害者は売春の元締めだったらしい――。

 連作警察小説。体内に入った弾丸が、一度止まった後でさらに直進したのではないかという謎から明らかになる、意外な真実は、しかしさらなる異常な真実の幕開けでしかありませんでした。
 

「蛍蜘蛛」
 ――マギーというのが俺のあだ名だ。生活安全課にはすでに山田と岸本がいるので、山岸の真ん中を取ってマギーだ。いつもコンビニ弁当にするのは、お目当ての店員がいるからだった。昨夜の殺人事件の被害者は暴走族あがりのカガマコト。名前に聞き覚えがあった。コンビニ店員をストーカーしているチンピラがそういう名前ではなかったか。

 第一章では名前でしか登場しなかった「彼女」が、いよいよ怪物めいた役割で登場します。
 

「腐死蝶」
 ――私にとって伊東課長は、恩人と呼べる男であった。「……娘の静加を捜してもらいたい」私が断る理由などあろうはずもない。有益な情報が得られたのは一年三ヶ月後のことだった。提供者は西新井署の巡査長・山岸だった。静加は殺人事件に関与している疑いがあるという。そのうち浮気調査の依頼が舞い込んできた。南原悦子という依頼人から頼まれ、夫の義男を尾行した……。

 静加の腐乱死体が発見された――で終わるはずもなく、またここに至って出来心や正義漢とは明らかに別の目的意識を持って動いているらしいこともわかってきました。
 

「罪時雨」
 ――署に一番近い床屋には、女将のほかに深雪という姪っ子が働いていた。同棲している男が乱暴者で、おとといも殴られたといって眼帯をしていた。今はストーカー規制法もある。私は深雪に毅然とした態度を取るように伝え、男が乱暴をしそうになったら電話するように言った。

 静加のルーツが明らかにされます。義理の父親がクズ男で、母親には見て見ぬふりをされては、歪んでしまうのも致し方ないのでしょうか。伊東が差し伸べた手も遅すぎました。
 

「死舞盃《しまいさかずき》」
 ――不動産管理会社エース・コーポレーションで銃撃戦があり、社長の南原義男を含む多数の男女が死亡した。この会社は暴力団奥山組のフロント企業であり、南原自身も参加団体の組長を務めている。敵対組織の殴り込みに思えたが、拳銃が一丁だけ現場から見つからず、一人娘の澪の姿も消えていた。事件の生き残りの構成員の証言から、アキという女が浮かび上がってきた……。

 ついに目的を達した――のでしょうか? つぶし合いをさせるというのはよくある話ですが、高みの見物とは行かず、アキも体を張っています。澪が消えた理由だけが不明でしたが――これだけ無茶苦茶な話なのに、さらに衝撃的な事実が隠されていたということに驚きです。
 

「独静加《ひとりしずか》」
 ――小学校の運動会。佐川唯という少女に動きはない。容疑者が保健室前にいるという無線が入る。「佐川真琴さんですね」覆面パトカーに乗せて警視庁に連れていこうとしたところを、それに気づいた少女が追いかけてきた。少女はそのまま交差点に駆け込み、車に接触した。少女は無事だったが、巻き込まれた通行人の容態が思わしくない。

 ついに幕を閉じました。どぎつい悪意に満ち満ちた作品のわりには、あまりにも静かな閉幕でした。結局のところ、警察関係者で静加に接触できたのは、山岸巡査長だけだったんですね。関係者の証言や事件の形跡から人物像が明らかになるという手法が徹底して取られているわけではないのですが、二十面相じゃないんだから直接対決があればその時点で捕まってますもんね、結果的にこういう形に落ち着いたのでしょう。

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