名作『れんげ野原のまんなかで』の続編登場です。
連作短篇集だった前作とは違い、こちらはほぼ連作長篇でした。それだけに、一話一話が日常の謎の傑作であり五話分五回も感動を体験できた前作と比べると、一話一話の謎はよりいっそう小粒という感は否めません。しかしながら前作をも取り込む形で秋葉家と秋庭市について大きな真相が語られており、短篇としては小粒ながら作品としてはよりスケールの大きなものになっていました。
全篇を通して重要な意味を持つのが、第一話の扉にもある万葉歌「筑波嶺のさ百合《ゆる》の花の夜床《ゆどこ》にも愛しけ妹ぞ昼もかなしけ」です。歌のとおり夫婦の愛、そして親と子の愛、が通底しています。
「第一話 穀雨」
――文子は保育園で本を紹介することになった。子どもが大好きな動物もので、教科書に載っているから母親にも受けがよさそうな『スーホの白い馬』を中心に、馬をテーマに紹介することにした。ゴールデンウィークに祖父の家に預けられていた佐由留《さゆる》は、図書館にあった『ある子馬裁判の記』という本に目を留めた。両親が離婚するため、「裁判」という言葉に敏感になっていたのだ。司書のおかげで小さなころに読んだだけの本も見つかったが、その本には出て来るはずの犬が出て来なかった……。
「第二話 茫種」
――保育園でのブックトークも無事終わり、園長先生に地元の銘菓「百合落雁」をもらって帰った文子だったが、落雁の箱からは手紙が出てきた。どうやら園児の家族がもらいものを中身に気づかないまま保育園に使い回したらしい。手紙は持ち主に返したものの、別の箱から今度は文様の入った落款のような印が出てきた。その印の出所は誰で、どういったものだのだろうか。
「第三話 小暑」
――降り続いた雨により秋葉家の斜面が地滑りを起こし、そこから白骨が出現した。終戦時のものであり事件性はないと警察は判断し、一応の落着を見た。それはさておき、文子は図書館の料理本コーナーで真剣に調べものをしている女性を見つけて声をかけた。女性は常連だった深雪さんの娘の優子さんで、入院している母のために「爆弾みたいな形の卵焼き」を探していたのだ。母が描いたフェルメールに似た絵の謎を解いてもらった優子さんは、引き出しから見つけた険しい母の絵を見せて、母は父から愛されていなかったのだ、と言うが――。
「第四話 白露」
――山中で見つかった白骨は「おんじ」だったのではないか。そう考える秋葉氏から、先代のこと、「おんじ」のこと、神社にいた「山の先生」のこと、先生の養女・咲子《えみこ》さんのこと等を聞かされ、文子と能勢は、半年前の大雪の日に聞いた怪談のこととその新たな解釈に思いを馳せる。だが――百合落雁を目にした能勢は、考えを改めるのだった。
「第五話 寒露」
――父親は咲子の結婚に反対してなどいなかった。父親の死を隠さなければならないのには理由があった。新治には障害があり、言葉を言葉通りにしか解釈できなかった。溺れた人を救って死んだ「山の先生」。母と暮らすことを選んだ佐由留。さまざまな出来事の真意が明らかに。
前作で読者からの要望が多かったのか、作中に登場する書籍の一覧表が巻末に掲載されていました。
作中には出て来ませんが、水上勉に『馬よ花野に眠るべし』という著書があり、もしかすると本書のタイトルも「馬」つながりなのでしょうか?
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