『イチゴーイチハチ! 1518!(5)』相田裕(小学館BIG SPIRITS COMICS)
第1巻の野球対決、丸ちゃんの目標、第4巻のチェンジ・オブ・ペース……などなど見どころはたくさんありましたが、第5巻ではいきなり山場が訪れました。この作品そしてこの作者がすごいと思うのはそこからです。主人公が丸ちゃんと烏谷であることには違いはないのですし、ふつうであれば、その二人の視点に立った心理描写に筆が割かれてもおかしくはないと思うんです。要するに恋愛話にまっしぐら――。でもすぐにはそうはなりません。「もったいないと思うんだよね。丸ちゃんだけのモノにするのは。」という会長の視点、それにナカナツという「同じような気持ちで……烏谷君を心配している子」の存在によって、視野がぐんと広げられているからです。たとえ若者には前しか見えなくても、前方以外にも世界は存在しているわけですし、漫画ならコマの中しか見えなくても、コマの外にも世界はあるはず――若者ではなく大人で、しかもコマの外にいる作者が、主人公には見えにくいそんな当たり前のことを見せてくれました。
『リウーを待ちながら(3)』朱戸アオ(講談社イブニングKC)
科学ムック〈フューチャーサイエンスシリーズ〉に連載されPHPコミックスというマイナーなレーベルから出版された『Final Phase』のセルフ・リメイク、完結です。もともとの発想の源にあったカミュ『ペスト』を明確に作品に絡ませる形で描かれたリメイク作ですが、初めに読んだのが『Final Phase』の方だったというのもあるのでしょうが、全3巻のスケールで描かれた『リウーを待ちながら』よりも全1巻にまとめられた『Final Phase』の方が完成度が高いと感じました。「奇跡は起きないわ……私たちはベストしか尽くせないのよ」という名台詞もありますしね。ただ、『リウー』に出てきた川島田先生は、『Final Phase』の粕谷先生とはまた違った見せ場がありました。この著者の描く事なかれ主義の中年って、何か憎めません。
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