『仮面病棟』知念実希人(実業之日本社文庫)★★★★☆

 島田荘司氏が選考委員を務める「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」受賞者による、第五作。

 一言で言えば、人質監禁サスペンスの皮をまとった本格ミステリです。

 拳銃を持った立てこもり犯の異常性の恐怖に怯えながら(受動的サスペンス)、犯人から身を守ることと閉じ込められた病院内からの脱出を模索することに努める(能動的サスペンス)とともに、院長が隠しているらしき謎をさぐるという探偵行為(謎解きミステリ)をおこなううえに、人質同士のロマンスまである、贅沢な一冊です。

 しかも、立てこもり、院長の秘密、ロマンス、そのすべてが医療告発をともなう本格ミステリ的真相に深く関わっており、リーダビリティの高い本格ミステリでした。

 短気で一触即発のアブナイ奴、という立てこもりの犯人像が、交渉の成立する余地がないため恐怖心をあおり、サスペンスを盛り上げます。

 デビューに島田荘司が関わっていたことから期待するような、派手な物理トリックこそありませんが、真犯人の隠し方の大胆さ(リアルといえばこれほどリアルな変装もなく、大胆といえばこれほど大胆な隠れ場所もありません)には唖然としました。

 院長の秘密にはさほど意外性はありませんでしたが、不自然に立派な手術室など、小さな違和感の正体がぴたりと嵌るすっきりとした造りには、謎解きミステリならではの快感がありました。

 療養型病院に強盗犯が籠城し、自らが撃った女の治療を要求した。事件に巻き込まれた外科医・速水秀悟は女を治療し、脱出を試みるうち、病院に隠された秘密を知る―。閉ざされた病院でくり広げられる究極の心理戦。そして迎える衝撃の結末とは。現役医師が描く、一気読み必至の〈本格ミステリー×医療サスペンス〉。著者初の文庫書き下ろし!(カバーあらすじ)

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