『あなたに贈る×《キス》』近藤史恵(PHP文芸文庫)★★★☆☆

『あなたに贈る×』★★★☆☆
 ――感染から数週間で確実に死に至る病。そのウイルスの感染ルートはただひとつ、唇を合わせること。かつては愛情を示すとされたその行為は、国際的に禁じられ、封印されている。しかし、ある全寮制の学園で一人の女生徒が亡くなり、「彼女の死は、“あの病”によるものらしい」と不穏な噂が駆け巡った。真相を探る後輩の美詩が辿り着いた、あまりに甘く残酷な事実とは。(カバーあらすじ)

 犯人探しのバリエーションなのですが、その〈犯人〉というのが人殺しや盗っ人ではなく、伝染病のキャリアであるという、架空世界もののミステリです。

 ソムノスフォビアと呼ばれるその感染症は、唾液によって感染するが、ウイルスは嫌気性が強いため飛沫感染等はせず、キスによってのみ感染する。キャリアになる原因は不明で、判定方法もまだ見つかっていない。感染方法はキスのみであるので、キスは法律で禁止され、わざわざ自分から危険を冒す者もいないため、感染による死者は激減したが……。

 つまり被害者である織恵が感染するルートが不明なのです。被害者は唇と唇を合わせるという「淫らな行為」に耽るような人間ではなく、そもそもキャリア自身も自分がキャリアだとわかっているとはかぎらないので、殺人なのか事故なのかも不明です。自分がキスした相手が死んで初めて、自分がキャリアだとわかる……。

 全寮制の学園という閉鎖空間のなかで、大切な友人を奪った犯人探しが始まります。犯人に殺意があったかどうかも不明なうえに、〈犯行〉方法が何しろキスですから、証拠もアリバイも動機もわからず、犯人探しといっても通常のミステリとは違う手続きを取らざるを得ません。――というより、どうやって見つければよいのでしょう?

 手がかりは被害者が生前に残した、「真のSeptember、三十一日に会いましょう」という謎めいたメールでした。

 結局のところ真相は〈推理〉によるものではありませんでしたが、衝撃的なのは間違いありません。

 織恵の行動によくわからないところがありました。第一の決断と第二の決断のあいだに二か月のブランクがあるのはなぜなのでしょう?
 

「夕映えの向こうに」★★☆☆☆
 ――俺はあの人に見放されたら一歩も動けなくなる。俺は覆い被さって彼の唇を噛んだ。彼のキスはいつだって優しい。翌朝、同じ三年の神原穂波から屋上に呼び出された。俺に告白などするような人間ではない。それなのに、竹内先生と口づけした写真をネタに、自分とつきあえと言い出した……。

 砂川先輩と竹内先生が主役のスピンオフ。ミステリともソムノスフォビアとも無関係の、愛情(師弟愛、同性愛)のおはなし。

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