『ミステリーズ!』vol.89 2018年6月

「私の一冊」青柳碧人
 チェスタトン『ブラウン神父の童心』
 

「弾正台切腹事件」伊吹亜門
 ――弾正台京都支所にて、大巡察・渋川が閉ざされた文庫内で腹と首を斬って死んでいた。強請の事実をタネに、暗殺事件の黒幕を探らせていた最中だった。強請を悔いて自殺するような特称な人間ではない。いずれ黒幕に殺されたのであろうが、扉には支え棒で突っ張りがしてあり第三者の出入りは不可能に見えた。

 「監獄舎の殺人」でミステリーズ!新人賞を受賞した作家による読み切り。明治初期が舞台のシリーズのようです。この作品だけ読んだかぎりでは、実在人物が探偵役を務める意味も魅力も感じられず、古典的な密室トリックがこの時代やこの作品ならではの状況で用いられているということもありませんでした。
 

「私はこれが訳したい(40)」平岡敦

「嗜好機械の事件簿(8)天上の作為」喜国雅彦

安寿と厨子王ファーストツアー」米澤穂信
 ――山椒大夫に買われた安寿は、金を稼ぐために歌を歌わされた。商《しょう》と呼ばれたその商いで、破楽土《ばらーど》や法布《ぽっぷ》を歌う安寿には、扶安《ふあん》という熱心な客がついた。

 山椒大夫のパロディ。「ファーストツアー」というタイトルが本当にそのまんまだったということに絶句。
 

「おわりの家」町田そのこ
 ――譲は家業の理容店を継ぐはずだった。だから美保理も二十六歳で美容学校に入学したのだ。なのに義父の勇一は突然弟の衛に店を継がせると言い出した。譲と美保理は理容店の少ない新興住宅地に店をオープンさせることになった。枇杷の木は縁起が悪いと言われた。通りすがりの地元民に、不幸の家だと言われた。美保理のしあわせは、いつだってミソをつけられる。

 見方を変えれば見え方も違って来る。ものごとには裏と表がある。枇杷の木はなぜ病人や死人が増えると言われるのか――。心優しい隣人のひとことをきっかけに、後ろ向きな美保理の気持ちも変化します。だけどそんな隣人すら、見えているものと違っていたとわかる瞬間は、少しショックでした。女による女のためのR-18文学賞受賞者。
 

「ホームズ書録(5)翻案とパロディの中間な“換骨奪胎”」北原尚彦

「レイコの部屋」
 盛林堂書房がゲストの後編。

「瓶詰の地獄」夢野久作
 「瓶詰の地獄」本文と、夢野久作愛好家・樫森右京による評論。夢野のほかの作品との比較を補強材料にして「瓶詰の地獄」の場面の意味を類推してゆく過程は愛好家ならではの知識量ですが、後半に入ってからの「自分はこう思う」の連続にはついていけませんでした。
 

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