『裏面 ある幻想的な物語』アフルレート・クビーン/吉村博次他訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚)★★★★☆

 『Die Andere Seite, Ein phantastischer Roman』Alfred Kubin,1909年。

 日常への突然の来訪者から始まり妻とのやり取りや旅路を経て、「夢の国」を目の当たりにするまで百ページ近く。非現実を訪れるまでの手続きを律儀に踏む古いタイプの小説だと思ったら、刊行が1909年、実際に古い作品でした。

 主人公の旧友パテラは、億万長者の妻が溺れそうになるのを助け、やがて莫大な財産を相続します。その財産をもとに、住人が「自分の夢以外のなにものをも」信じていない、進歩的な科学に反発した「夢の国」を作りあげました。そこを訪れた主人公夫妻は、奇妙な等価交換の原理に基づく社会や、悪徳に染まった住人たちを目にし……。

 しかし何と言っても圧巻は、第三部第三章「地獄」でしょう。夢の国を信じて裏切られた新参のアメリカ人による叛乱は、おぞましい現象を引き起こします。サド――と比べればソフトと言えるかもしれませんが――それでもやはり、サドの小説にも似た、動物たちの叛乱、交尾と性交、殺し合い、拷問……の乱痴気騒ぎが、嫌になるほどひたすら延々と繰り広げられるのです。

 挿絵も素描画家である著者によるもの。クトゥルフものの一場面のような296ページ、338ページの屍の山など、異様な迫力に満ちています。

 巨万の富を持つ謎の人物パテラが中央アジア辺境に建設した〈夢の国〉に招かれた画家は、ヨーロッパ中から集められた古い建物から成る奇妙な都に住む奇妙な人々と出会う。画家はこの街の住民となり、数々の奇怪な体験をするが、やがてパテラの支配に挑戦するアメリカ人の登場と時を同じくして、恐るべき災厄と混乱が都市を覆い始める。幻想絵画の巨匠クビーンが描くグロテスクな終末の地獄図。作者自筆の挿絵を収録。(カバーあらすじより)

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 裏面 ある幻想的な物語 


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