『ミステリマガジン』2019年1月号No.732【ミステリが読みたい!2019年版】

 ベスト・ランキング1位は、海外・国内それぞれアンソニーホロヴィッツカササギ殺人事件』と原リョウ『それまでの明日』

「2018年総括」三橋曉・若林踏・千街晶之小池啓介
 三津田信三は一作目がわざとらしくて敬遠していたのですが、『碆霊(はえだま)の如き祀るもの』の「七十もの謎」には惹かれます。『コールド・コールド・グラウンド』はあらすじから社会性の高い警察小説だと思っていたのですが、著者が島田荘司作品の愛読者だというのが意外でした。大倉崇裕の福家警部補シリーズのほか、倉知淳『皇帝と拳銃と』、香納諒一『完全犯罪の死角 刑事花房京子』といった倒叙ものが充実してました。
 

「わたしのベスト10 海外篇・国内篇」
 佳多山大地のコメントは今年もありきたりで佳多山氏ならではの切り口がありませんでした。山崎まどかの「女性と犯罪の関係として提示されたものがあまりにも幼稚で、もしあそこで描かれているのが男性だったら、それを不自然だと論じる評者はもっと多かったのではないか」というのは『元年春之祭』のことでしょうか。クリスティ・オマージュの『カササギ殺人事件』あたりも好きそうなのにランク外です。
 

「周辺ジャンル総括」風間賢二・新保博久・廣澤吉泰
 ジョイス・キャロル・オーツ『ジャック・オブ・スペード』について、「ポーの「ウィリアム・ウィルスン」や「告げ口心臓」、「黒猫」のパスティーシュとなり、あまつさえ、ドストエフスキーの『罪と罰』をも想起させる展開となる。いわば、本書自体が“剽窃”のコラージュになっている」という指摘が親切。
 

「華文ミステリに花開く〈新本格〉の遺伝子――『元年春之祭』著者、陸秋槎氏大いに語る」インタビュアー:杉江松恋
 「探偵役とワトソン役でも、女の子のパターンはあまりない」「登場人物には成長させたい」など、ああいった作品ができあがった背景が聞けました。
 

「迷宮解体新書(107)篠たまき」村上貴史

「ミステリ・ヴォイスUK(110)イヴ殺し?」松下祥子
 「Killing Commendatore」だと動名詞だとすんなりわかるのに、「Flying planes」だと動名詞である可能性をすっ飛ばして形容詞だと感じてしまいます。
 

「時代劇だよ!ミステリー(9)上様隠し子疑惑! 天一坊事件」ペリー荻野

「書評など」
アンソニーホロヴィッツカササギ殺人事件』は海外篇1位となったクリスティーへのオマージュ。深緑野分『ベルリンは晴れているか』は国内篇10位となった、著者得意の海外もの。

ピョン・ヘヨン『ホール』は、シャーリイ・ジャクスン賞受賞作。著者は韓国の女性作家で、『アオイガーデン』という短篇集がすでに翻訳されているそうです。シャーリイ・ジャクスン賞の受賞者が女性だと聞くとやはり期待値が高まってしまいます。

カーター・ディクスン『九人と死で十人だ』は、国書刊行会から出ていたものの大幅改訳文庫化。

衿沢世衣子『制服ぬすまれた』は「日常の謎」系の短篇集。優れた日常の謎ものは定型のミステリよりも工夫が凝らされているので気になります。
 

『THE GOOD COP/グッド・コップ』は、『名探偵モンク』のクリエイターによる刑事ドラマ。「基本はコロンボ」という出演者の言葉がいい。アニメはいまさらのうる星やつら ビューティフル・ドリーマー。ブルーレイ化されたのでしょうか?
 

「パブ・シャーロック・ホームズ〈ホームズ対ルパン〉」日暮雅通×森田崇
 「『立派に名を成した人物』ショームズに対して『若造』ルパンが精一杯の背伸びで茶化している」という解釈には膝を打ちました。それだとショームズのあの扱いにも納得です。実際にパリを見て来て、漫画に描いたルパンの脱獄コースが地理的に不可能だったので描き直したいそうです。現地に行かないとわからないことってあるものですね。「電子書籍自費出版はそれなりに順調で、マネタイズもうまくいきそうなので(中略)『813』もやっていきたい」という嬉しい言葉が。「平行して『ルパンの告白』もやりたい」とありますし、2019年には新作が見られるでしょうか?
 

「映画『天国でまた会おう』について、アルベール・デュポンデル監督に訊く」インタビュアー:三橋曉

  


防犯カメラ