『七時間半』獅子文六(ちくま文庫)★★★☆☆

 東京−大阪間を走る特急“ちどり”内で起こる七時間半の出来事を描いた群像劇。

 中心となる出来事は二つあります。一つには、食堂係の純日本人的小町藤倉サヨ子と、サヨ子にプロポーズされたコック助手の矢板喜一の恋の行方です。互いに憎からず思いながらも、亡父の食堂を復活させたいサヨ子と、一流のコックになりたい喜イやんの思惑はすれ違い、とうとう喜イやんは大阪に着くまでにプロポーズの返事を迫られています。

 そこにミスちどりである多情な客室乗務員の今出川有女子《いまでがわ・うめこ》がからんできます。寿退社を考えながらも候補を一人に絞りきれない有女子は、禿の社長、マザコンの学者、療養中のぼんぼんと駆け引きをしつつ、食堂係に対する敵対心から、喜イやんにも色目を使うのです。

 もう一つの主要な柱が、爆弾疑惑です。折りしも今日のちどりには首相が乗り込んでおり、不穏な言葉をつぶやく酔っぱらい、チンピラ風の二人組――等、こちらもゴールは大阪。終点である大阪に着くまでに何か事件が起こりそうな空気が流れ出しています。

 この、そのまんま安手の昼ドラみたいな古くさい感じがいい味を出していました。

 東京‐大阪間が七時間半かかっていた頃、特急列車「ちどり」を舞台にしたドタバタ劇。給仕係の藤倉サヨ子と食堂車コックの矢板喜一の恋のゆくえ、それに横槍を入れる美人乗務員、今出川有女子と彼女を射止めようと奔走する大阪商人、岸和田社長や大学院生の甲賀恭男とその母親。さらには総理大臣を乗せたこの列車に爆弾が仕掛けられているという噂まで駆け巡る!(カバーあらすじ)

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