『あるキング 完全版』伊坂幸太郎(新潮文庫)★★★☆☆

 伊坂幸太郎の『あるキング』の、雑誌掲載版・単行本版・徳間文庫版すべてのバージョンの合本版+折り込みチラシに(本文とは関係のない)掌篇つき。

 こういうのは初めに読んだバージョンが記憶に残るものなので、本書の巻頭にある単行本版がいちばんよかったです。雑誌版は言葉足らず、文庫版は余計な付け足しが多すぎるように思えてしまいます。

 巻末のインタビューを読んだかぎりでは、野球にしたのはたまたまで、シェイクスピアを絡めたのも後付けのようです。それにしては「フェアはファウル、ファウルはフェア」がこれほど嵌っているのだから、面白い。

 単行本版では駒込監督が「高潔にして賢明、勇にして誠実な」ブルータスとしてあらかじめ登場していたり、大橋先輩の名前が森に変えられているものの、「バーナムの森」はやりすぎだと思ったのか文庫版では削除されていたり、推敲の跡が見られます。

 それにしても恐ろしいのは、マクベス夫妻は野心を持っていましたし山田夫妻にも野心はありますが、野心らしきものがあるのかどうかもわからない王求が魔女の予言と運命に巻き込まれてしまうところです。運命は誰にもみな等しく訪れるということなのでしょう。そしてまた、運命は悪いものばかりではなく良いものも悪いものもある、という事実も文庫版には書き加えられていました。

 山田王求。プロ野球チーム「仙醍キングス」を愛してやまない両親に育てられた彼は、超人的才能を生かし野球選手となる。本当の「天才」が現れたとき、人は “それ”をどう受け取るのか――。群像劇の手法で王を描いた雑誌版。シェイクスピアを軸に寓話的色彩を強めた単行本版。伊坂ユーモアたっぷりの文庫版。同じ物語でありながら、異なる読み味の三篇をすべて収録した「完全版」。(カバーあらすじ)

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