『ナイトランド・クォータリー』vol.15【海の幻視】

『ナイトランド・クォータリー』vol.15【海の幻視】

「Night Land Gallery クロード・ジョセフ・ヴェルネ パルプマガジンの装画にも通じる嵐のシーンの数々」沙月樹京

「他人の密会(2) 海、狂気、速度――ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー頌」柏木静

夏来健次インタビュー 原潜、クトゥルー、そして海賊」採録:牧原勝志
 古典ミステリ、ウォルター・S・マスターマン『誤配書簡』をkindle個人出版、2020年には古典吸血鬼アンソロジー東京創元社から刊行予定。

「海と湖のあいだに」植草昌実
 実際にあったマフィアの誘拐殺人事件をモチーフにした映画『シシリアン・ゴースト・ストーリー』について。

「藤原ヨウコウ・ブンガク幻視録(7) 幸田露伴「幻談」」

「無窮の海の螺旋」クリストファー・ゴールデン/小椋姿子訳(The Curious Allure of the Sea,Christopher Golden,2018)★★☆☆☆
 ――父トムが海で行方不明となり、無人で見つかったボートには、ジェニーにも見覚えのないペンダントが遺されていました。そのヘッドに刻まれた三重の螺旋に心惹かれた彼女は、それをそのまま写したタトゥーを右腕に入れるのですが……。(扉あらすじより)

 海で行方不明になった父親が遺した螺旋模様のペンダントには動物と死者を引き寄せる力があったが、娘は土壇場になってその力を放棄する――という話ですが、娘はその力のことを初めからわかっているのかいないのか、積極的に行動するでも怯えて逃げるでもなく無為に動き回っているので、結局なにがしたかったのかよくわからない印象を受けました。
 

「〈内外アンソロジー・ガイド〉 海洋奇譚精華撰」植草昌実

「白の船」神野オキナ(2018)
 ――アニメーターの「私」は、台風の中、荒れる海をどこへともなく航行する、巨大な白いジャンク船を目撃します。ほどなくして、友人の海兵隊員トニー・マーカスが任務中に事故に遭い入院したと、彼の妻ジーナからの電話が。友の奇妙な負傷と、医師が漏らした「白いジャンク」という言葉は、まさか……。(扉あらすじ)

 現代沖縄を舞台にした舟幽霊のような怪物の物語。沖縄の人間にとっては海や中国船などが恐らくもっと身近なものなのだろうと思います。
 

「STRANGE STORIES――奇妙な味の古典を求めて(12) ジェイコブズと思いきや、ノイズって誰?」安田均
 最終回。予定を変更して「猿の手」のジェイコブズではなく、アルフレッド・ノイズ。
 

「海星《ヒトデ》作戦一九六二」ピート・ローリック/待兼音二郎(Operation Starfish,Pete Rawlick,2014)★☆☆☆☆
 ――わたしは当時海兵隊に所属しながら、JACKという組織の一員でもあった。諜報部員であり、おまけにただのスパイではなかった。やがてわたしは組織のナンバーツーを務めるピースリー博士の助手を務めることになった。誘惑装置が起動された。ロシア人がクズキナ・マットと呼んでいる海星や海胆のような怪物を、おびき寄せて殺すためだ。

 これまで『ナイトランド』に「彼女が遺したもの」「音符の間の空白」という力作が訳載されていた著者でしたが、本作はその二作と比べると幻想性が薄く、怪物と戦う秘密作戦でありながら怪獣映画ではなくクトゥルー臭の強い作品でした。
 

インスマスの思い出」スティーヴ・ラスニック・テム/小椋姿子訳(Between the Pilings,Steve Rasnic Tem,2015)★★★★☆
 ――やっと着いた、とホイッコムは思った。看板には「インスマス・ビーチ」、さらに小さな字で宿泊所と書かれているようだが読めない。「四泊したいんだ。子供の頃に一度来た時以来だ」「変わってないでしょう。建物の端の階段から浜に出られます。部屋はどこも杭で囲んであります」「思い出したよ。珍しいからね」「少々お待ちください。掃除中ですので。砂が入ってくるものですから」。母は砂のことで文句ばかり言っていた。

 子供の頃に家族で訪れたインスマスを再訪する……インスマスという舞台に引きずられずに、思い出の地を再訪するノスタルジックな作風になっているところに、著者の非凡さを感じます。これまで『ナイトランド』で、幻想的なものからグロテスクなものまでいくつかのタイプの作品が訳載されている著者らしい作品と言えるでしょう。
 

「海になる」岩城裕明(2018)★★★☆☆
 ――広志は呆然としていた。三十四歳にもなって寝小便をしてしまったからだ。それからも寝小便は続いた。小便は無色で、潮の香りがした。やがて口から大量の海水を嘔吐するようになった。口からは魚も出てくるようになり、処理に困って料理するようになった。不倫のすえ妊娠したという職場の同僚が行方不明だった。

 確かにホラーですがギャグ度も強い作品でした。
 

「〈海洋ホラー・ブックガイド〉ホジスンからクライトンまで」牧原勝志

「叙情性のあるホラーゲームを求めて~Walking Simulatorとホラーゲーム~」徳岡正肇
 

「砂漠の魚の物語」キム・ニューマン/植草昌実訳(Another Fish Story,Kim Newman,2005)★★★☆☆
 ――西部劇さながらの凄腕の流れ者。来て欲しいときにデレク・リーチは現れる。サンドバギーが二台近づいてきた。「チャーリーの国へようこそ」運転手が言った。「教母レディ・マーシュのもとにようこそ。われらファミリーの霊的な助言者だ」とチャーリーが言った。教母は水を流しておくのが好きで、テーブルにはダゴンの像が安置してあった。

 ディオゲネス・クラブものの一篇であり、クトゥルーもの短篇「大物」の続篇だそうです。ニューマン作品らしく具材が豊富なので、読む人によっていろいろな楽しみ方ができる作品だとは思います。チャールズ・マンソンがモデルの勘違いしちゃってる系の男が現実を見せつけられるという印象が残りました。
 

「『幻影の航海』から「多頭のヒドラ」へ――『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』の背景」岡和田晃
 『パイレーツ・オブ・カリビアン』4作目と、シリーズ原作の『幻影の航海(生命の泉)』について。
 

「夜の声」ウィリアム・ホープ・ホジスン/植草昌実訳(The Voice in the Night,William Hope Hodgson,1907)★★★★☆
 ――星ひとつない暗い夜だった。俺一人以外は船室で眠っているところだった。闇の中から呼びかける声がした。「横づけすればよかろう」「そういうわけにはいかないのです。明かりを向けないと約束してくれますか……」……半年前に沈没した船の生き残りだった婚約者二人は、誰もいない廃船と、灰色のキノコで覆われた島にたどり着いた。

 古典新訳。映画『マタンゴ』の原作。「夜の声」という叙情的なタイトルとは裏腹に、人間がキノコに浸食されるというグロテスクなホラーですが、最後になるまでは夜中に横付けにされたボートの声が語るだけで実際にはその姿は見せない……という趣向からは、確かに「夜の声」というタイトルが相応しいと感じました。
 

「【未訳書ガイド】海の恐怖を体感する五冊」植草昌実
 

「海霧」ダナ・バーネット/植草昌実訳(Fog,Dana Burnet,1915)★★★☆☆
 ――船道具屋の主人が霧深い夜に語るのは、自分がごく短いあいだ雇った奇妙な青年の思い出。彼は船の夢を見たのをきっかけに家を飛び出し、内陸の農村から海辺の村を目指して旅してきた、というのですが……。(扉あらすじ)

 熱病がきっかけで視えるようになってしまった元少年が幽霊(?)の世界にいざなわれてしまうという、静かなゴースト・ストーリーです。
 

  


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