『ヤングジャンプGOLD』vol.4 2018.12.29(集英社)
新人を中心とした読み切りを集めた雑誌でした。三都慎司目当てで購入。以下、よかった作品のあらすじと感想。
「アルマ」三都慎司
――2082年、マナと先生はあう人を探しに冬のブダペストを訪れていた。自我を持つギジンはロボットとは違い、強制的に働かせることは禁止されているはずだった。だが荒廃した世界ではギジンがお金で取引されていた。第三次大戦中に製造されたギジンはハイスペックすぎるためメモリーがリセットされるように作られていたという。
アルマとはスペイン語で心・魂の意。これまでの三都慎司作品「アレグロ」「ハヤブサ」『ダレカノセカイ』と比べると、悩みを抱えた主人公であるはずのマナがわりとふざけたキャラなので、そこまで悲壮感はありません。破壊されたギジンが破壊されながらも目だけはマナの方を見ているシーンや、先生の「目を閉じるな」の台詞が、エグくて胸に刺さります。
「情報屋アゴダシ」生瓶鵜義
――あごが長くてアゴからダシが出るからアゴダシというあだ名のいじめられっ子には悪い噂があった。情報や願い事と交換条件を迫り、ささいなことを根に持って復讐するのだという。だがカエデは友人の忠告に耳を貸さずに、アンナと仲良くなりたいとアゴダシに相談する。
アゴダシというネーミングのセンスには笑いましたが、内容はというと変態がわがままを通すホラーでした。絵がきれいなのと、アゴダシの見た目がそこまで気持ち悪くないのとで、変態でホラーとはいえさほど嫌悪感はありません。
「仁義なき夕張先輩」新谷信貴
――風紀委員の夕張先輩はヤ○ザ映画にどっぷりはまり、エセ広島弁で話をする。先生《オヤジ》の指示で買い出しに行くと、コンビニで店員にからんでいるジジィがいた。
なりきる先輩を描いたギャグ漫画。こういうのは台詞とシチュエーションが不自然だとシラケるのですが、その点この作品はうまくできていました。
「通い直し学校」大竹玲二
――進路希望が机に戻された生徒は担任に進路相談室に呼ばれ、机に献花を置かれてそのまま姿を消して戻ってこなかった。真相を確かめに行った東郷も姿を消し、突然足を痛めた南條は悲鳴をあげて逃げ出した。その夜、おかしな夢を見た小西は、逃げた南條の姿を探した。
どんな真相が隠されているのかとは思いましたが、まさかの衝撃のホラーでした。それにしたって真相が明らかになったあとの教室の場面は描き方に悪意があります(^^。それくらい気持ちの悪いことだということなのでしょうけれど。
「足立のモナリザ」大浜カナタ
――絵から抜け出して人間界で暮らしたいという願いが叶ったモナリザのリザと真珠の耳飾りの少女ミミは、足立区のアパートでOLをしながら生活していた。だがミミは浮気され、リザは彼氏いない歴500年だった。
ギャグはいまいちですが、ミミがあのまんまなのに可愛く描けているのと、リザのあねご感がはんぱじゃないのとが笑えます。
「オカルト先輩曰く」さかなこうじ
――オカルトマニアのオカルト先輩に強引に連れられて、五百旗頭はトイレの花子さんを見に女子トイレ。個室の扉をノックすると、果たして「はぁい」という返事がして……。
花子さんの登場シーンが衝撃でした(^^;。後付けの都市伝説というのは実際にありそうです。影がないことで幽霊の存在をさらっと表現するささやかな逆転が押しつけがましくなくてよいです。
「筆と疵」沙嶋カタナ
――妖怪画を描く絵師の竹助の絵は人間味がなく魅力がなかった。だがあるとき顔の右半分にあざのある女に出会い、その魅力に取り憑かれた竹助の絵は、以後評判となった。竹助にモデルを頼まれた女は、「付き合うのは夏の間…この場所でだけだ」と謎めいた一言を告げる。
女の魅力や女への思いを、なぜあの場所で夏の間だけなのかという疑問に変換して表現することで、読者にも自然に共感できるようになっていました。
「夢を裂くナイフ」遠野いぬのひ
――校庭の隅に生えた雑草を絵に描いてばかりいた下田はいじめられていた。見苦しいものが嫌いな京は、虫の棲処となっているその雑草もオッサンくさい下田のことも我慢ならなかった。ある日、京のせいで雑草が除去されてしまったと知った下田は……。
ハッピーエンドじゃないのに、何の解決にもなっていないのに――心の底からの意地のぶつかり合いがすがすがしくて気持ちがいい。
[amazon で見る]