『ボールパークの神様』本城雅人(創元推理文庫)★★★☆☆

 『God in The Ballpark』2012年。

 メジャー球団のクラブボーイになった留学生を主人公とした短篇集に、文庫書き下ろし一篇を加えたものです。『ミステリーズ!』に連載していた『誉れ高き勇敢なブルーよ』の最初の何章かを読んで、骨太なスポーツ小説に惹かれたのですが、本書はわりとライトな作品集でした。書名だけではなく各短篇にも英題が当てられています。
 

「マリソルの指先」(The Finger of Mar Sol)★★★☆☆
 ――俺と篤郎が住むニューヨークの語学学校の寮に、メッツの進藤投手が訪ねて来た。俺の高校の先輩である進藤は、メッツで起こった窃盗事件の相談に来たのだ。投手コーチの財布から金が抜き取られ、掏摸の前科があるカルロス「マリソル」レイノソが疑われたため、俺たちにクラブボーイとして潜入してほしいと言われ……。

 タイトルにもなっているマリソルとは、ドミニカの海と太陽の神様だそうです。篤郎が冒頭で披露する手品や、投手コーチが現役時代に「器用な」変化球投手だったという事実が解決にうまく絡められているものの、総じて小粒です。カルロスの過去も取ってつけたようで、さほど響きません。
 

「世の中甘くねえぞ、坊や」(Life Ain't Easy for a Boy!)★★★☆☆
 ――松宮隼人はポスティングシステムによってメッツに移籍した若きスター投手だったが、オープン戦でマイナーに落とされていた。そんな松宮の通訳に俺たちが就くことになった。日本いるときのようにスター気取りの松宮は、デビュー戦で打ち込まれても人のせいにばかりしていた。そんな松宮に、俺はかついて進藤から教わった「勝てる方法」を……。

 死に物狂いとはどういうことか、という話でした。ばれなければイカサマではない、という話――ではない? ミステリ用語、というよりは、そのおおもとである奇術用語のミスディレクションがズバリと決まった作品です。
 

「アフリカに行って地雷を踏め」(Step on the mine of Africa, if suicide is committed)★★★☆☆
 ――ドミニカ出身の二塁手ビクトルの弟の行方がわからなくなった。教師を目指している優等生で、いなくなる理由などないという。ビクトルの代理人であるおふくろから捜索を頼まれた俺たちは、高校で聞き込みを始めるが……。

 何とも物騒なタイトルは、ジャーナリスト志望の美咲が言った言葉「自殺するくらいならアフリカに行って地雷を踏みなさい」に由来します。物騒ではありますが、けだし名言です。クラビーリーダーの何気ない一言が、お調子者というキャラクターを利用して冗談にまぎれさせておいて、実は真相のヒントになっていました。
 

「牧師の後継者」(New teacher come to the Ballpark)★★★☆☆
 ――チームの四番を打つシュガーDは敬虔なクリスチャンだった。新しく来た牧師のやり方に戸惑い、打撃にも影響が出ていた。

 進藤さんの「インチキ」ふたたび。ピッチャーがインチキをして自軍のバッターを打たせるにはどうしたらいいか? ミステリ心をくすぐる素敵な謎でした。
 

「次のヤツ出てこい」(Next Man Up!)★★★☆☆
 ――エースとして期待されていた俺はいつまで経ってもクイックができずにいた。勝てば甲子園が決まる試合で先発を務めているのは、打撃投手だった郡司だった。

 文庫書き下ろし。恭平の高校時代のエピソードです。すでに卒業してプロになって進藤の書いた単なる精神論のようなものが、実戦(?)をもとにしたものだったとわかる瞬間はどきりとしました。
 

「さすらいの仕事人」(A journey man)★★★☆☆
 ――プレーオフを争っている終盤、三番サードのジャレット・スミスが肩を骨折してしまい、メッツはベテランの「ジャーニーマン」スティーヴ・ハンフリーを獲得した。スティーヴはマイナー時代につきあっていたジョアンナが死んだことを聞き、ジョアンナが残した「私たちの子供のプレーを見てあげてほしい」という言葉を手がかりに、高校球児のなかから我が子を探そうとしていた。

 人捜しです。「一打席で、それまでのミスが帳消しになる」話です。

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