『アイルランド童話集 隊を組んで歩く妖精達』イエイツ編/山宮允撰訳(岩波文庫)

 『Fairy and Folk Tales of the Irish Peasantry』William Butler Yeats ed.,1888年

 イェイツ編によるアイルランド民話集から、さらに訳者が精選したもの。

 第一部は「隊を組んで歩く妖精達」ということで、主に妖精譚が収められています。ウィリアム・アリンガムによる妖精詩、お坊さんの機知(?)で妖精を追っ払った話(ティー・クロフトン・クロイカー)、遊び人の若者が一晩中妖精に死体運びをさせられて改心する話(ダクラス・ハイド)、恋人の皇子が殺され沈められた湖水に白い鱒となって帰りを待つ姫様の話(エス・ラヴァー)。

 イェイツ自身にも「The Stolen Child」という詩作品がありますが、第二部は妖精による「替え子」です。「卵殻の醸造所」には、さらわれた子を取り戻すために卵の殻を煮込む方法が記されています。別にまじないでも何でもなく、卵の殻を醸造《かも》すという行為を珍しがった取り替え子が、つい口を利いてしまったところを狙って、火かき棒で咽喉を刺すという方法でした。「ヂェイミー・フリールと若いお嬢さん」(ドニゴールの昔噺)は、肝試しのような感じで妖精たちの城に押しかけたジェイミーが、取り替え子の現場に居合わせ、妖精たちの裏を掻きます。昔話なので結末はぬるいハッピーエンドです。

 第三部「人魚《メロウ》」には、テイ・クローフトン・クロイカーによる「魂の檻」一篇だけが収録されています。爺人魚に会った漁師のヂャックが海のなかに連れていかれ、溺死者の魂を閉じ込めた壺の存在を知り、魂を解放してやるものの人魚との交流は続いたというヘンテコな話でした。

 「四 一人ぼっちでいる妖精たち」には、ウィルヤム・アリンガムによる詩「レプラコーン、一名妖精の靴屋さん」と、向こう見ずな若者が妖精と仲良くなりやがて花嫁を救う「主従」(ティー・クローフトン・クローカー)。

 「五 幽霊」には、クロウ夫人の「輝く子供」という話が収められており、これは幽霊というよりも座敷童のような怪でした。

 「六 巫子、妖精学者など」。妖精学者という耳慣れない言葉が気になります。原語は何なのでしょう? 「魔法のかかったバタ」(クウィーンズ州の話)は、乳の出なくなった牛の呪いを解くため、魔法使いのお婆さんが尽力しますが、呪いをかけたお婆さんの方が怖すぎます。

 その他「七 巨人」「八 王様、王妃様、お姫様、殿様、盗人など」

  


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