『私を知らないで』白河三兎(集英社文庫)★★★★☆

 転勤族の息子である黒田慎平は、とても醒めていて、転校してきた学校のクラス内政治を無難に渡り歩くことに、何よりも気を遣っています。転校してきてからも、リーダー格の女子ミータンとの距離を測り、ハブられている暗い美少女キヨコを避けるように過ごしていました。

 雲行きが怪しくなってくるのは、もう一人の転校生・高野がやって来てからです。一言で言えば、空気が読めずにマイペース。天然すぎて嫌味なところが嫌味なのかどうかもわからなくなるような言動をするイケメンです。「趣味はゴルフ」と言い放ち、「拳を合わせて挨拶するのがジャマイカン流なんだ」というわけのわからないコミュニケーションを求めてくる、実際にいたらちょっと距離を置いときたいようなヤツです。

 しかし黒田くんはまんまと高野のペースに押し流されて、キヨコと関わりを持つようになります。

 特殊な生活環境で成長することで育まれた主人公の独特の対人スキルとスタンスと、同じく幼い頃から両親の愛情に恵まれず金銭的に苦労を重ねたキヨコの生き方と、少年漫画の主人公的ズレた高野の熱血の、三者三様の浮き方が、ちょうどよく嵌っているんですね。醒めた人と熱血な人の組み合わせは互いにないものを補い合っているので確かに相性がよさそうですけれども。

 この本に出て来る大人たちは、みんな、ずるい。

 「大人たちは言う。教室の中のことしか知らないのが子供の弱点だ、と。でも僕たちは教室の中のことだけなら大人よりもずっと深く知っている。」

 教室内の人間関係が丸く収まったとき主人公が心に思う名言です。

 一方で、子どもにはどうにもできないこと、子どもはおろか大人にもどうにもできない、外部からの悪意や人の手の及ばないこと、も本書には登場します。その一つ一つが胸に刺さります。子どもにはどうにもできないこと、の一つを、力業でどうにかしてしまう結末が大好きです。

 中2の夏の終わり、転校生の「僕」は不思議な少女と出会った。誰よりも美しい彼女は、なぜか「キヨコ」と呼ばれてクラス中から無視されている。「僕」はキヨコの存在が気になり、あとを尾行するが……。少年時代のひたむきな想いと、ままならない「僕」の現在。そして、向日葵のように強くしなやかな少女が、心に抱えた秘密とは――。メフィスト賞受賞の著者による書き下ろし。心に刺さる、青春の物語。(カバーあらすじ)

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