『僕の殺人』太田忠司(講談社文庫)★★★☆☆

 太田忠司のデビュー長篇。〈殺人三部作〉とは言っても三作間につながりはないようです。

 僕はこの事件の犠牲者であり、加害者であり、探偵であり、証人であり、またトリックでもあった。/そして僕は事件の記録者になろうとしている。

 ――という趣向が、単なる趣向ではなく、まさしく「僕は誰=何者なのか?」という問いと直結している点が、注目です。

 両親を亡くし叔父夫婦に引き取られた僕が従妹の泉と歩いていると、フリーライター小林から声をかけられた。父・雄一郎が階段から転落した状態で見つかり、作家だった母・中沢祥子が首つり死体で見つかった、無理心中事件。十年前の事件を独自に調査しているという小林は、僕にたずねた。「山本裕司君。君はいったい誰なんだ?」 五歳のころに事件を目の当たりにした衝撃から記憶をなくしていた僕は、それをきっかけに事件に興味を持ち始める。祖父の遺産が長男である雄一郎の「子供」に遺されていたことを知った僕は、叔父たち一家にも不審を持ち始めた……。

 すべては、祖父の利己的な遺言と、同じく利己的な両親と、兄弟の愛憎から生み出された、悲劇でした。

 とはいえ、事情が特殊すぎることと、登場人物に色がないことから、あまり悲劇的には感じませんでした。

 【※ネタバレ*1

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 僕の殺人 


 

 

 

 

*1経営の才能は次男に、芸術的才能は長男に受け継がれることを願っていた祖父だったが、長男には見切りをつけ、遺産であるコレクションを長男に売り飛ばされることを危惧して、「長男の子ども」に遺産を残したのだった。だが長男は不妊症だった。金に目が眩んでいた長男夫婦は、他人の子を孕んで我が子だと偽る。だが妻が選んだ相手はよりによって憎い次男だった。それを知った長男は、妻をドライアイスの古典的トリックで自殺に見せかけて殺し、現場にばったり居合わせてしまった次男ともみあいになり、階段から転げ落ちる。「僕」は叔父さんの子どもだったのだ。つまり従妹とは実の兄妹になる。……だが。本当の真相は違った。掘り返した箱からは、犬に噛まれて左手の小指をなくした「僕」と同じ特徴を持つ骨が見つかった。それは、僕の死体だった。甦る記憶。次男の子どもの存在を許せなかった長男は、妻と同じ日に我が子(次男の子)を殺し、誘拐してきた子どもを我が子として育てたのだ。「ごめんなさい」いつの間にか隣に来ていた従妹が謝る。長男を突き落としたのは従妹だった。僕と従妹は、誰にも知られず暮らしながら、愛し合った。

 


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