『ナイトランド・クォータリー』vol.16【化外の科学、悪魔の発明】

「Night Land Gallery キジメッカ 幻想される新たな生命体」沙月樹京
 ボスみたい。怪奇幻想は好きだけどグロテスクは嫌いです。
 

「他人の密会(3)カラヴァッジョ、斬首の血」柏木静
 絵のなかの誰がマタイかを特定する図像探偵みたいな文章もありました。
 

「北原尚彦インタビュー ヴィクトリア朝の奇想と発明」牧原勝志
 「小説家でありたい」という言葉にびっくり。てっきりホームズ研究家かと思っていました。
 

Factorio――人よ効率と永遠の狭間で踊れ」徳岡正肇

「藤原ヨウコウ・ブンガク幻視録(8)海野十三「大脳手術」より」

「ブックガイド『砂漠の惑星』――自己増殖する機械たち」隼瀬茅淳

ハイデガー博士の実験」ナサニエル・ホーソーン/植草昌実訳(Dr. Heidegger's Experiment,Nathaniel Hawthorn,1837)★★★☆☆
 ――ハイデガー博士が四人の老人を実験に招いた。〈回春の水〉を飲んだ四人は見る見るうちに中年になり、さらに飲むとますます若くなった。

 古典新訳。若返りに対する渇望と儚さが簡潔に描かれています。
 

「『ディファレンス・エンジン』と二元論」岡和田晃

「悪の信奉者」クラーク・アシュトン・スミス/田村美佐子訳(The Devotee of Evil,Clark Ashton Smith,1933)★★★☆☆
 ――アヴェロードと知り合ったのは、図書館で猟奇殺人の新聞記事を読んでいるときだった。ここまで恐ろしいことができるのは、人間の力だけでなく“あちら側”の力が働いているとしか考えられないと主張するアヴェロードは、悪の力が放つエネルギーを完全な姿で見せようとわたしを屋敷に誘うのだった。

 悪魔召喚(?)の儀式には12号掲載のピート・ローリック「音符の間の空白」()を思わせるようなところがあり、そういう意味では先進的だったのでしょうし、その場面の迫力には鬼気迫るものがありますが、いかんせん古さゆえか全体的に堅苦しいのは否めません。
 

「〈映画ガイド〉その狂気は誰のもの?」隼瀬茅淳

「宇宙の片隅、天才シェフのフルコース」アンドリュー・ペン・ロマイン/待兼音二郎(Prix Fixe,Andrew Penn Romine,2016)★★☆☆☆
 ――爆発で死んだと思われていた伝説のシェフが生きていた。ジュールはネット上の謎かけをいくつも解き、ようやく招待されたのだ。出てきた料理は確かに素晴らしかった。とはいえ自宅の万能合成機を使っても同じくらいのものは作れるだろう。シェフが心なしか眉根を寄せる。怒らせてしまったかしら?

 ホラーや奇妙な味ではありきたりの素材をSFで料理した、というよりは、ただ単に古くさいだけのオチがあるだけの作品でした。ゾンビをSF的に解釈した「ゾンビやめますか?……」とは雲泥の差です。
 

「K・W・ジーターの「悪魔の発明」」岡和田晃

「健康で文化的な怪物《クリーチャー》の生活」ナンシー・キルパトリック/徳岡正肇訳(Creature Comforts,Nancy Kilpatric,1994)★★★★☆
 ――キャンディにとって〈モンスター〉は最高にイカしたバンドで、ボーカルの〈クリーチャー〉はロック・アイコンだった。偽のプレスパスを出してクリーチャーに会えるとは思ってもみなかった。キャンディは記者のふりをしてたずねた。「あなたは本物のフランケンシュタイン的な方なんですか?」「違う。私は彼の被造物だ。ヴィクター・フランケンシュタインは彼女のために私を作ったのだ」「彼女?」「もちろんエリザベスだ」

 vol.3()に「忘れないで」が掲載されていた著者による、『ヴァンパイア・レスタト』の味付けをした『フランケンシュタイン』の続編/再解釈です。とは言うものの、ここに描かれたのがあの怪物の本質と考えるよりは、自分を〈クリーチャー〉だと思い込む快楽殺人鬼だと捉える方がしっくりきます。
 

因果律の啓示」グリン・オーウェン・バーラス/徳岡正肇訳(Causality Revelation,Glynn Owen Barrass,2017)★★★☆☆
 ――俺はしくじった。大切なひとだったのに。サラはベッドから動いていなかった。うごめいていた。人間には不可能な方法で。七日前。ロイドたちは自動駆動俑のプログラムを組み上げリリースした。五日前。特派員がしゃべっていた「発症した患者が多すぎて病院が足りません」。二日前。昏睡ウィルスに侵された犠牲者は〈肉の塔〉になって、南太平洋を目指していた。南太平洋の海底で何が起こっているのか? 霧の中の彼女なら知っているはずだ。

 グリン・バーラスはこれまで旧版vol.2に「海が連れてきたもの」()、vol.5に「快楽空間」、vol.6に「屍の顔役」、vol.7に「カーリー」、クォータリーvol.7に「受胎儀礼」()、vol.10に「異次元の映像」()が掲載されています。サイバーパンクの「快楽空間」がつまらなかったのでその後の「屍の顔役」「カーリー」は読んでいなかったのですが、「海が連れてきたもの」「異次元の映像」の二篇はよく出来ていました。グロテスクとクトゥルーというのが作風の特徴でしょうか。プログラムによってクトゥルーというウィルスを全世界に蔓延させるという一種のバイオテロが描かれていますが、妻への愛も強く感じられ、その妻への愛すら計画の一部だったのが哀れでした。
 

「発明王エジソンと人造人間」植草昌実

「ダイエットやめますか? それとも人間やめますか?」ブライアン・M・サモンズ/待兼音二郎(Eat-to-Live,Brian M. Sammons,2005)★★★★☆
 ――ジェイクとナンシーはナノマシン含有量ゼロの食べ物を探していた。二〇世紀終盤からのダイエット熱はナノマシンを生み出した。ナノマシンは人間の血管に住み着いて脂肪分を分解するが、短期間しか生存できないので継続的に補充する必要がある。さらに脳を刺激する“暴食抑制器”が投入された。だがナノマシンが進化して人々が栄養失調で倒れるようになり、非加工の家畜の肉や愛玩動物までもが食欲の対象となった。

 いくらB級だからってふざけた邦題はやめてほしい。しかも何十年前のネタなのか……。「健康で文化的な……」はまだ「Creature Comforts」の意訳でしたが。ゾンビをSF的に解釈するといっても、せいぜいが死者が甦ったり人を襲ったりする理由を疑似科学的にエクスキューズしているものが大半ですが、この作品はゾンビになる理由と人を襲って食べる理由が不可分に結びついており、ゾンビ作品に新風を吹き込んでいました。
 

「不滅のマッド・サイエンティスト」植草昌実

「秘薬狂騒曲」キム・ニューマン/植草昌実訳(A Drug on the Market,Kim Newman,2002)★★★★★
 ――ジキル博士の遺品から見つけた反故紙から、かの秘薬の製法を見つけたとしたら? レオ・デアはその秘薬を大量製造し、製造権と販売権を独占して〈ジキル・トニック〉として売り出そうと考えていた。魔術や錬金術を連想させないように〈トニック〉と呼ぼう。薬事法のことは国会議員にお願いしてある。原価は四分の一ファージング。全体の利益は莫大なものになる。すっかり読めた。昔からあるいかさま薬商売だ。だが、ジキルの名を使うのは新しい。

 ジキル博士が残した調合法をもとに再び薬を作り出すというアイデアに加えて、販売するに当たっての細部がキム・ニューマンらしく詳細で楽しい。このおかげで怪奇幻想に加えてコン・ゲーム的要素も楽しめる作品になっています。
 

  


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