『ランチのアッコちゃん』柚木麻子(双葉文庫)★★★★☆

 アッコさんこと黒川敦子と(元)部下の澤田三智子が、おいしいものを食べて元気を出したり(「ランチのアッコちゃん」)、おいしいものを提供して元気になってもらったり(「夜食のアッコちゃん」)して、みんなが幸せになれる作品です。元気になれば仕事もうまくいくし、たいていのことなら乗り越えられそうな気になれます。柚木作品のなかでもとりわけいい人ばかりの小説でした。嫌な気分になってスカッとしたいときにおすすめ。

 アッコさんはとてもパワフルな人です。つねに全力。でも暑苦しくなく、颯爽としています。前半の二篇は、そんなアッコさんに憧れる澤田三智子が、アッコさんとのやり取りを通して元気を取り戻し、仕事上の悩みや停滞も解決してゆく物語。優秀な上司と心酔する部下という取り合わせには、ホームズとワトソンだったりオサムとアキラだったりといった相棒ものの魅力がありました。

 後半の二篇はアッコさん&みっちゃんはゲスト出演のみ。第三話「夜の大捜査先生」は食べ物の話ですらありませんでした。

 最終話「ゆとりのビアガーデン」には、『けむたい後輩』の真美子にも似た、頭が弱そうで周囲からも浮いているけど実は本質を突いてもいる女の子が登場します。仕事が出来ずに三か月で会社を辞めてしまったけれど、「恩返し」のために、効率の悪い残業をなくそうと、会社の屋上でビアガーデンを始めるという破天荒な物語。自分を変えることもできず硬化してしまった人間と戦えるのは、たぶんこういう人なのでしょう。

 なぜかみっちゃんも、「夜の大捜査先生」の野百合も、「ゆとりのビアガーデン」の玲実も、みんながみんな走ってます。

 地味な派遣社員の三智子は彼氏にフラれて落ち込み、食欲もなかった。そこへ雲の上の存在である黒川敦子部長、通称“アッコさん”から声がかかる。「一週間、ランチを取り替えっこしましょう」。気乗りがしない三智子だったが、アッコさんの不思議なランチコースを巡るうち、少しずつ変わっていく自分に気づく(表題作)。読むほどに心が弾んでくる魔法の四編。大人気の“ビタミン小説”をぜひご賞味ください。(カバーあらすじ)

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