『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴』島田荘司(新潮文庫nex)★★★☆☆

「セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴」
 ――教会で突如倒れた老婆。死に隠れたロシアの秘宝。横浜・馬車道に事務所を移した御手洗潔と石岡は、ある老婦人の訪問を受ける。名探偵への冷やかし客かと思われた彼女の話を聞いた御手洗は、しかしその出来事を“大事件”と断定した。猿楽町にある教会での集いの最中に降り出した雨。その瞬間、顔を蒼白にして倒れた老婆。奇妙な現象、行動の裏には、政府とロシアにまつわる秘宝の存在が……。聖夜を彩る心温まるミステリー。(カバーあらすじ)

 再刊を機に読み返しました。短篇ではなく長篇だったんですね。

 ユーモラスな発端、その裏に潜む重大な事件、下水道の探検、俗悪な大人と純真な子ども、御手洗の茶目っ気。御手洗ものの要素が一通り詰まっています。

 下水道の探検や子どもと遊園地に行く場面などは、こと謎解きミステリとしてなら無くても困らず、実際短篇で済ますこともできたはずです。

 一方で被害者夫婦がなぜ交通事故に遭ったのか?という添え物の謎は、添え物なりに面白く、被害者の性格付けが活かされていたのには、不謹慎ながら大笑いしてしまいました。

 それにしても被害者親子はどうして身代金受け渡しの下見に行かなかったのでしょう? 下見さえしていれば御手洗の出る幕もなかったと思うのですが。。。
 

「シアルヴィ館のクリスマス」
 ――「エントツを伝い室内に降りてくるサンタクロースは、あからさまに性を象徴している」トマス・ラドラム教授が言った。「フランスの民話では靴は妊娠した女性を意味する。もともとクリスマスの贈り物は木靴の中に満たされた」「その話を聞いて謎が解けたよ。エカテリーナも宮廷ではフランス語しか話さなかった」キヨシが言った。

 サンタクロースに関する学者どもの蘊蓄と、エカテリーナの「セント・ニコラスのダイヤモンドの靴」に関する補足。シニカルな石岡ではなくただの讃美者ハインリッヒと、笑いと身勝手にあふれた御手洗ではなくただの天才キヨシが出てくる作品は、御手洗シリーズとは別ものです。。。

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