目覚めたらサハラ砂漠。落ちてくる電話ボックス。
荒唐無稽な導入ながら、内容や語り口はいたってシリアスです。
主人公は田辺志朗(シロ)。
電話だけでつながっているもう一人の「遭難者」や119番の相手口とのやり取りが繰り広げられる現在パートからは、どうして砂漠の真ん中にいるのかいったい何が起こっているのか誘拐だとしたら目的は何なのか、先が知りたくてページを繰る手が止まりません。とはいえ、サハラ砂漠や電話ボックスも充分に非現実的ですが、足が砂になって消えてしまう事態にいたっては完全に非現実ですから、勘の良い読者ならうすうすわかってしまうでしょう。
それと交互に語られる過去パートでは、学生時代からのセックスフレンド桐子(キリ)、キリの親子関係、シロと冷え切った両親との親子関係、溺れかけた記憶と父親、親代わりだった姉、姉と一緒に埋めたタイムカプセル……そうした挿話から浮かび上がってくるのは、かなりヘビーな人生とドライな人生観です。
終盤に「不運の集大成」という言葉が出て来ますが、ヘビーなだけなら不幸ではない人間なんていくらでもいるのに、主人公の現在の境遇はある程度はこのドライさが招いてしまったようなところもありました。
その運命が不運か幸運かはさておき、シロの人生とこの小説は、運命というものでがっちり組み立てられていました。シロとキリが作中で観たSF映画が伏線になってたんですね。かなり複雑で厳密に構成されたこういう作品が、SFっぽい用語もほぼ使われず作風もSFらしさ皆無で書かれていることに驚きです。
異様な暑さに目を覚ますと、「僕」は砂漠にいた。そこへ突如降ってきたのは、ごくごくありふれた電話ボックスだった。――いったいなぜ? 混乱したまま電話ボックスに入り、助けを求めて119番に電話をかける。だが、そこで手にした真実はあまりにも不可解で……。過去と現在が交錯する悪夢のような世界から、「僕」は無事に生還することができるのか。ミステリアスな傑作長編。文庫書き下ろし。(カバーあらすじ)
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