『私の嫌いな探偵』東川篤哉(光文社文庫)★★★☆☆

「死に至る全力疾走の謎」★★★★☆
 ――微かな振動と「ぶぎゃ」という声を感じて、朱美が黎明ビルの窓から顔を出すと、頭から血を流した男が大の字になって地面に倒れていた。ビルの壁には血の跡が。通行人によれば、男は全力疾走して自分から壁にぶつかったというのだが……。

 タイトルからし島田荘司の某作を思い起こさせますが、当然それを踏まえてのオマージュでしょう。トリックもその某作と似た発想が用いられています。ではあの発想がいかに料理されているかということになりますが、ギャグミステリとしての面目躍如なのは、真相が明らかになったときの絵づらが爆笑を引き起こすところです。タイトルの「疾走」というのが仮定や喩えではなく、事実だったとは。
 

「探偵が撮ってしまった画」★★★☆☆
 ――佐々木教授にメールで呼び出された三人が屋敷を訪れると、教授は首を絞められて死んでいた。雪の上には教授の足跡しかない。一方そのころ鵜飼は浮気の現場を写真に撮るため雪だるまの陰に潜んで張り込みをしていた。無事に証拠写真を撮影した鵜飼だったが、その浮気の当人・水沢が殺されてしまう。

 古典的なトリックを、小学生のころ教科書でやった覚えのある出来事(鵜飼は高校生のころらしいのですが)と結びつけた作品です。子どもっぽい鵜飼が気づくに相応しいきっかけで、キャラクターとトリックが結びついた好篇だと思います。このトリックをはっきり「証拠」として見せるのも新鮮でした。目撃者がいたりビデオであったりすればそもそも謎にはなりませんし、謎と証明が存在できるぎりぎりのラインなのだと思います。自虐的とも言えるオチもよかったです。
 

「烏賊神家の一族の殺人」★★☆☆☆
 ――烏賊を祀ってある烏賊神神社の宮司に呼ばれた鵜飼と朱美。息子の恋人が相応しい女性かどうか調査してくれという依頼だった。話を聞いている最中、巫女の女の子が悲鳴をあげて走ってきた。「逆さまの祠」で女性が背中を刺されて死んでいるという。だが駆けつけた鵜飼たちが祠を開けても、中には誰もいなかった。

 探偵役が鵜飼でも朱美でも砂川警部でもなく、烏賊のゆるキャラ(をかぶった酒屋の娘)です。烏賊に関する一般人の思い込みというその一点のみで成り立っている作品で、ゆるキャラを用いたギャグでごまかしていると感じてしまいまいた。死体消失という現象が強烈なので、探偵から指摘されるまではダイイングメッセージものだということにも気づきませんでした。タイトルだけでなく「逆さま」も犬神家へのオマージュになっています。
 

「死者は溜め息を漏らさない」★★☆☆☆
 ――夜道を歩いていた中学生の目の前に、崖の上から死体が転がり落ちて来た。ぽっかりと死者の開いた口から、明るい輝きをしたものが吐き出された。「エクトプラズムだ!」少年は叫んで逃げ出した。

 川のなかのものに気づく鵜飼の探偵のしての観察眼と知識が光りますが、真相は唖然とするほど見たまんまでした。
 

「二〇四号室は燃えているか?」★★★☆☆
 ――彼が浮気をしているようだ。そのイケメンが住む二〇四号室の向かいのビルで張り込みをしていた鵜飼たちは、赤いドレスに黒髪の女が男を押し倒し、二〇四号室から煙が出ているのを目撃する。慌てて駆けつけると、男が胸を刺されて死んでいた。

 本書五作目にしてようやく、本当の「助手」流平の出番が増えましたが、これは解決編の実演のため、ですね。。。(^^; 依頼人が鵜飼を選んだ理由自体は名探偵もののパロディでもよくあるものですが、事件の直接的な動機とは別に、もう一段階「騙し(性別)」が存在する造りになっていました。
 

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