『二年間のバカンス』ジュール・ヴェルヌ/横塚光雄訳(集英社文庫)★★☆☆☆

 『Deux ans de vacances』Jules Verne,1888年

 従来『十五少年漂流記』の邦題でお馴染みの、ヴェルヌ代表作の一つです。

 ページを開くと、嵐のなか漂流している少年たちが必死で船の操縦を試みているところからスタートします。そして次々と(文字通り)顔を出す登場人物たち。現代の映画やドラマや漫画にも通じるようなツカミで、ヴェルヌは意外とこういうところも上手かったのだなあと魅力を再認識しました。

 この段階では誰が誰だか区別はつきませんが、それでいいんですよね。とにかく、なぜか少年たちだけが何人も船で漂流しているという状況の不思議さと、嵐とのサバイバルという派手な局面によって、読者の興味をがっちりつかんでいます。

 その後ひととおり少年たち一人一人の紹介があり、いざ無人島生活が始まります。

 15人と1匹のうち、すぐに個性が明らかになるのは、優等生的な13歳のフランス人ブリアン、ブリアンを毛嫌いするガキ大将的な13歳のイギリス人ドニファン、中立的な立場でリーダーとなる14歳のアメリカ人ゴードン、ムードメーカー的な12歳のサーヴィス、12歳の黒人少年水夫モコ、犬のファン、ブリアンの弟でなぜか塞ぎ込んでいる11歳のジャック、だいたいこの6人+1匹が中心となってサバイバルは進んでゆきます。

 主人公が子どもたちならではだからでしょうか、島に漂着しても、これからどうしよう的な葛藤やドラマはさほどありません。話し合いめいたものはありますが、特に何事もなくすいすい探検に移ってしまいます。

 ここらへんが『二年間のバカンス』のバカンスたる所以でしょう。受ける印象はサバイバルというより探検ごっこに近いのです。すぐに手に入る食料、すぐに確認できる地形、都合良く起きる落盤ですぐに見つかる住まい、何事もなく越せる冬、etc…。

 読む前から何となく予想はついていましたが、大人になってから読むと、やっぱりブリアンがウザイですよね(^^;

 物語に動きが出て来るのは、終盤になりもう一組の遭難者が現れてからです。乗組員を殺して船を乗っ取った極悪人たちが登場し、お気楽なバカンスは一気に緊張感の漂うものに変わりました。一番の危険が飢えや寒さや病気や猛獣ではなく、あとからやってきた人間だというのも何だかなあ……という気はするのですが、とにもかくにも少年たちがほぼ初めて遭遇する命の危険です。

 一方で、悪人たちに見つからないように銃は撃つな、ということを、喧嘩別れしたドニファンたちにブリアンが知らせに行くのですが、そのときの出来事がきっかけで、ドニファンがものわかりのいいいい子ちゃんになってしまい、個性が消えてしまうという瑕もありました。

 自分を少年たちに置き換えて探検ごっこを楽しめるかどうか、が作品を楽しむポイントだと思います。

 夏休みの楽しい沿岸航海を明日にひかえて、ニュージーランドオークランドのチェアマン寄宿学校の少年たちは、待ちきれずに、夜、ヨットに忍び込んで遊んでいた。だが、ふと気づくと、ヨットは港の外に出ていて、嵐に巻き込まれ、無人島に流されてしまう。大人がひとりもいない絶海の孤島で、限られた科学知識をふりしぼり、力を合わせて困難な運命と闘う少年たち。名作十五少年漂流記(カバーあらすじ)
 

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