中学最後の公式戦。PK戦を0-2で負けている状況――。
この絶体絶命の状況から、主立ったサッカー部員たちに6人よる回想によって、物語は進んでゆきます。
「全国大会初出場」を目標に掲げていたはずでした。「神様は勝ちたくない者を勝たせない」のだから、貪欲に勝ちたがっているはずでした。なのに試合開始前からチームはバラバラ。前半開始早々2失点。
どうしてチームがバラバラになってしまったのか。いかにしてPK戦までもつれこませることができたのか。
そうした状況が、チームメイト一人一人の視点を通して、少しずつ明らかになってゆきます。
仲間のミスで負けるくらいなら、自分のミスで負けるほうがいい。そうした優しい気持を監督に見出だされ、負けないチーム作りのために熱血キーパーになった潮崎。
小学生の女子チームで熱血を貫いたがために孤立してしまい、中学では選手ではなく女子マネージャーになった広瀬。
やる気のなさと器用さを見抜かれ、「よほどのことがない限り使わない。でも『よほど』の時に備えてベンチに置いておきたい」と正直に話してくれた監督に、敬意を抱く宇田川。
監督の息子という色眼鏡で見られがちな立場に、父親の夢を叶えたい父親と一緒にいたい、という願いのために、みずから飛び込んだ隼人。
動きのある試合の経過を描くのではなく、PKという心理戦を軸にして、六人の中学生および監督の心理状況を描いてゆく、というのは、スポーツ小説として上手い選択だと感じました。
実際、自己分析や駆け引きのいくつかは、中学生とは思えないほどです。
問題の試合前にチームがバラバラになってしまった理由は、途中である程度わかってしまいます。真相についてはミステリ的な驚きに終始していて、試合前までの心理描写が豊富なわりには、真相後の登場人物のフォローはわりとあっさりしているところに不満を持ちました。
中学サッカーの首都圏大会、県予選の準々決勝。2点ビハインドから追いついて迎えたPK戦。各チーム二人ずつ蹴り終え、0‐2でリードされた状況に、キャプテンでゴールキーパーの潮崎隆弘は試合を諦めかけていた。そんな絶望的な状況下で、点取り屋の阪堂隼人、司令塔の鈴木望、マネージャーの広瀬はるならは、自らの弱さ、葛藤と向き合っていく―繊細な中学生たちの揺れ動く心情とともに運命の試合が、いま決着する。(カバーあらすじ)
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