『黄昏の彼女たち(下)』サラ・ウォーターズ/中村有希訳(創元推理文庫)★★★★☆

 『The Paying Guests』Sarah Waters,2014年。

 上巻で明らかになったある事実に対しリリアンが選んだ決意から、物語は意外な展開を見せることになります。

 正確に言えば、意外とはいっても過去のミステリに照らせば定跡どおりなのですが、中盤過ぎにフランシスがそうするように、読者もまたリリアンの言うことがどこまで真実なのか疑わしく感じられてくるのです。この信用できない感じこそ、まぎれもなくサラ・ウォーターズ印でした。

 そこから先にはミステリ的な驚きこそありませんが、物語の落としどころがわからない、という意味では、先の読めない展開でした。

 作中でも戦争の殺戮と殺人のことがちらほら出ていましたが、最終的に事件ともども「他者を傷つけることで得た安全」と表現されていて、なるほどそうつながるのか!という感じでした。

 リリアンの告白は、彼女とフランシスとの秘めた関係を大きく揺さぶるものだった。彼女たちをとりまくすべてがままならぬ状況で、ある夜、ついに悲劇は起きる。殺人という最悪の形で。ところが、事態は“犯人”さえ予想だにしない意外な展開を迎える……。世界大戦のはざまにあって、時代に翻弄される女性たちの姿を殺人事件を通して描く、ウォーターズにしか書きえぬミステリ。(カバーあらすじ)
 

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