『A Dog So Small』Philippa Pearce,1962年。
誕生日の贈り物におじいさんから犬をもらえるのを楽しみにしていたベンだったが、届いたのは一枚の犬の絵だった。おばあさんの大切にしていた絵――とはいえ、本物の犬ではない。その絵の裏に書かれた「チキチト チワワ」とは、スペイン語で「とても小さな チワワ」という意味だという。どうしても犬を飼いたいベンの目に、いつしか小さな犬の姿が見えるようになる。目をつぶればその犬に会える……。ベンはその小犬と行動するようになる――。
子どもの空想もの、といって片づけてしまうには、あまりにも夢がありません。読んでいるあいだ、ベンと一緒に空想にワクワクするのではなく、ベンを憐れんでしまいました。
どれほど犬を楽しみにしていたとはいえ、おばあさんやおじいさんも優しさに溢れ、家族にも恵まれているのに、妄想に逃げ込んでしまうなんて。
ベンに対し距離感を置いた感想をいだいてしまうのは、この作品の持つ現実との距離感のためだと思います。
ベンの空想に現れるチキチトは、所詮現実には存在しません。目をつむっていてもどこへでも連れていってくれるわけではありません。けれどベンにはそのことがわからず、ついには一家で引っ越すことにもなります。
これは家族に理解があって犬を飼うためというよりも、完全に病気療養でしょう。最後に現実の犬と向き合い、ベンはようやく正常に戻った、と言えますが、ひどくビターな作品でした。
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