『ミステリーズ!』vol.99

「紅葉の錦【問題編】」麻耶雄嵩
 ――美作の温泉宿に卒業旅行に来た6人。そこにはチュウルウという神様の言い伝えがあり、山のふもとと頂上に二つの祠があった。チュウルウは洞窟を通って下の祠から上の祠に死者の魂を連れてゆくと言われていた。上の祠に行くには、なだらかで舗装もされた迂回路と、参道の二つの方法があった。温泉から戻ると、祠に供えられていたサザンカの花びらが枕元に散っていた。まさか本当にチュウルウは存在するのか……。

 木更津シリーズ最新作。サイン色紙が当たる犯人当てです。麻耶作品らしく、犯人当てといいつつ犯人だけでなく被害者も不明だというのが人を食っています。とはいえ麻耶氏は犯人当てに関しては手堅いイメージなので、タイムテーブルに沿って考えればイケそうな気もするのですが……やっぱり難しいです。
 

「私はこれが訳したい(50)THE MORIARTY PAPERS」北原尚彦
 モリアーティーの事跡を集めた「捜査ファイルミステリー」形式の作品。
 

「『東京ホロウアウト』刊行記念 福田和代インタビュー」
 「オリンピック間近の東京で起こるテロ」と「道路や長距離トラックが狙われ、『東京の食料がなくなり、空っぽになる」というタイムリーな内容。
 

「コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎」笛吹太郎 ★★★★☆
 ――カフェ〈アンプル〉で開かれる「コージーボーイズの集い」は、出版関係者らがお茶とケーキを囲んでミステリの話をするという催しである。遅れて来た小説家の福来が開口一番言った。「ぼくには昨夜のアリバイがない」。嫌われ者の業界人・島村が昨夜殺され、直前に電話で借金の督促をしていたことから、福来が疑われていたが、昨夜はしこたま飲んでしまって記憶がないという。確かに飲んだはずだが三軒目の店が思い出せない。その店の人間ならアリバイを証言してくれるのだが……。

 かつて『創元推理21』にデビュー作が掲載されたミステリーズ!新人賞の最終候補作家の十七年ぶりの二作目。黒後家蜘蛛の会パターンの作品です。殺人事件が扱われていながら、泥酔してなくした記憶を探るというとぼけた味わいがありました。真相を補強する手がかりが、二つとも何気ない言葉にある【※同じような描写だったのは実際に同じ場所だったから。「お久しぶり」は直後にやって来たことに対する皮肉だった。】とろこは、出版関係者と小説家の事件らしいと言えます。
 

「翻訳ミステリ四十年(4)リーバル・サスペンスとサイコ・スリラー旋風の90年代」松坂健・新保博久
 「警察小説も(中略)調査そのものの動きを描くというより、組織の中の息づかいを描くある種の業界小説になっている。法廷推理も(中略)法曹業界小説に進化したということかな」「はっきり言えば、それでは読んでいて楽しくなくなってくるんですが」というやり取りが現在の状況を端的に表していて、さすが評論家だと感心しました。
 

「機械はなぜ祈るか」南雲マサキ ★★★★☆
 ――神山先輩が忘れたペンライトを取りに会議室に入ると、そこにはしゃべる全自動掃除機がいた。TAMAGOという名のその掃除機は、ひびの入ったペンライトのお詫びに生贄として愛に捧げられ、奇妙な共同生活が始まった。TAMAGOは食べたものを何でも取り込み、成長していく。だがあるとき愛は神山先輩から、神様と交わしたある約束の話を聞かされる……。

 第9回創元SF短編賞優秀賞受賞作。ルンバに初音ミクに合体ロボに神話に……と盛り沢山の内容です。稲荷の使いをお掃除ロボットにやらせて、道具を取り込みパワーアップして敵を倒し、最後はラスボス(神)との一騎打ち――荒唐無稽としか思えないような内容もすんなり受け入れられるのは、それがアニメでお馴染みのものだからでしょう。軽妙なやり取りやドタバタバトルなどが、アニメを観ないわたしでもアニメ映像で脳内に再生されました。
 

「ブックレビュー」
 『体温 多田尋子小説集』は、芥川賞候補作家の知られざる作品集。
 『文豪たちの怪しい宴』鯨統一郎は、『邪馬台国はどこですか?』シリーズの最新作。歴史ではなく文学がテーマ。シリーズ名が冠されているわけではないので、紹介されなきゃ気づかないところでした。

  


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