変な言い方になるけれど、この人はミステリを書こうと思っていたのだろうか、と思ってしまう。だってたぶんプロパーと呼ばれるような人には、こういう騙りは書けないと思う。学校という狭い世界で、なおかつ主人公がハブだから、ぎりぎりで成立している騙りなのだけれど――。
何しろ架も高町も、嘘を本当だと演じることで自分を保っているので、嘘が嘘だと認識させてしまうわけにはいかない、結果、仕掛けが明らかになっても世界は続き、世界が変わるといったカタルシスはありません。そんなの、普通のミステリであれば考えられませんものね。
ある意味で、読者なんかほったらかしで、登場人物を大事にしている、とも言えます。
そもそも冒頭から、シカトによるイジメという重いテーマが描かれていたのですが、終盤に差し掛かるにつれて、どんどん重くなってゆき、最終的には親と子の問題があぶり出されていました。それはある面では、DQNネームや大人になりきれない親といったアクチュアルな問題を反映しているようにも思えます。DQNネームも視点を変えればそういう受け止め方もできるのですね。親鳩の名前は適当に決めておきながら、雛の名前は最後まで持ち越されるのが、象徴的です。
結局のところ、真相が何だったのかを、客観的に判断する手だてはないのかな。
高校入学七ヶ月目のある日。些細な失敗のためクラスメイトから疎外され、“幽霊”と呼ばれているぼくは、席替えで初めて存在を意識した同級生にいきなり話しかけられた。「まだ、お礼を言ってもらってない気がする」――やがてぼくらは誰もいない図書室で、言葉を交わすようになる。一方、校舎の周辺では小動物の死骸が続けて発見され……。心を深く揺さぶる青春ミステリの傑作。(カバーあらすじ)
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