『あやまち』沢村凜(講談社文庫)★★★☆☆

 沢村凜は非常に幅広い作風の持ち主で、デビューこそファンタジーですが、働く人と労基官に焦点を当てた『ディーセント・ワーク・ガーディアン』、タイトル通り脇役に焦点を当てたミステリ『脇役スタンド・バイ・ミー』、講談社文庫では『タソガレ』と本書『あやまち』のような恋愛ミステリーが刊行されています。いずれにも共通するのは、(弱者を含めた)他者への細やかなまなざし、でしょうか。

 それは決して優しいだけのものではなく、ときとしてかなり冷徹であったりもします。

 冒頭の尾行者の描かれ方には悪意のようなものすら感じます。それはもちろん主人公の偏見のある視点なのですが。

 地下鉄の階段でいつも決まって追い抜いてゆくというただそれだけから恋に発展してゆくという、一見するとロマンチックな物語は、過去も仕事もはっきりしない恋人と、主人公にまといつく尾行者の存在から、不穏な空気が漂い始めます。

 真相自体はさほど驚くべきものではありませんでしたが、タイトルの持つ意味と友人ケラッチのことが明かされたときには衝撃が走りました。生きていればつらいことはあるけれど、人はそんなにも弱いものなのなのかとやるせなくなります。

 帰宅途中の電車のなかで偶然気づいたひそやかな追跡劇。その尾行者が、ようやく幸せをつかんだかに見えたわたしにつきまとうようになる。地下鉄の駅の階段を歩いてのぼる者同士として意識するようになり結ばれた恋人。彼はこの尾行者と何かつながりがあるのか……。切なさが胸に迫る長編恋愛ミステリー。(カバーあらすじ)
 

  


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