『オットーと魔術師』山尾悠子(集英社文庫コバルト・シリーズ)★★★☆☆

 作品集成未収録のジュヴナイル作品集です。
 

「オットーと魔術師」
 ――ネコの仔が病気になって何も食べなくなってしまった。オットーはマリコさんに言われて魔術師のところにネコを診せに行った。

 安易なオノマトペにひねりのないストーリーと、なるほど本来の作風とはかなり違いのある作品でした。
 

「チョコレートと人形」
 ――天才科学者オー氏が作りあげたアンドロイドに、人形師のノエルが人間らしい姿を与えた。「チョコレート食べたい」としか話せないアンドロイドの辰砂に、オー氏はすっかりのぼせてしまった。

 生みの親か育ての親か、ではありませんが、中身の製作者か外見の製作者かという問題は、ファンタジーのなかに意外と現実的な視点だと思いました。
 

「堕天使」★★★☆☆
 ――堕天使のKはマネージャーのセリの紹介で会社社長を訪れた。「君が天使か。わしを楽しませることができたら言うことを聞いてやろう」「天使ではなく堕天使です」Kは外套を脱いで翼を見せた。

 恐ろしいのは人間、自分だけが特別ではない……堕ちた天使の仕事ぶりを通して、社会の悲哀を感じさせます。
 

『初夏ものがたり』

「第一話 オリーブ・トーマス」★★★☆☆
 ――七歳の誕生日を翌日に控えた少女が、タキ氏という宿泊客に連れ去られた。オリーブ・トーマスというその少女が生まれたとほぼ同時に、若い父親は亡くなっていた。トーマス氏が今回のタキ氏のビジネスの相手だった。

 死者とのビジネスをおこなうタキ氏のシリーズ。一目でわかりあえる親子の血や奇跡などない……現実を見せられつつ、小さな奇跡にほっとします。
 

「第二話 ワン・ペア」★★★★☆
 ――ナオミはタキ氏に迫った。依頼は死者の側からというルールを破ってでも、死んだ双子の兄に会いたかった。もしも死んだらワン・ペアの片割れに会いに来る、そう約束したはずなのに、一年も音沙汰はない。

 当然といえば当然の現実ですが、強い結びつきをしていた双子だからこそ、特別なものがあると信じてしまいたくなるのもうなずけます。タキ氏の優しさ(現実を受け止めさせることも含めての優しさ)が身に染みます。
 

「第三話 通夜の客」★★★★☆
 ――最近日本に帰ってきたミノ夫人は、一族の長老の通夜の席で、七歳のころに一度だけ会ったことのあるタキ氏の姿を見かけた。五十年前のあのとき、「神隠し」にあったミノ夫人は、死んだ母と遊んでいたのだった。ということは……今夜も誰かのビジネスなのだろうか。

 このエピソードだけはアンソロジー『少女怪談』に収録されていたのを読んだことがありました。死者といえども人であり、人の縁をつなぐのがタキ氏のビジネスです。そんななか基本的に一期一会のタキ氏と不思議と縁のある老婦人が見たのは、縁とは人との間だけではないということでした。
 

「第四話 夏への一日」★★★☆☆
 ――タキ氏はビジネスに忙殺されていた。二件以上を同時に指示されたかと思えば、特例として四日分の期間を与えられた少女もいた。少女は知り合いに電話し、管理人に目撃され、父親に会おうとした……。

 そして最終話。思い残したことのある人がやはり多いのか、タキ氏らは大忙しです。現場を無視した受理、秘密事項の漏洩、特例の廃止……お役所仕事は続いてゆきます。
 

  


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