『狙った獣』マーガレット・ミラー/雨沢泰訳(創元推理文庫)★★★★☆

 『Beast In View』Margret Millar,1955年。

 裕福で孤独な独身女性ヘレン・クラーヴォーを突如として襲った悪意。エヴリン・メリックと名乗る女性は、その後つぎつぎに人を不幸に陥れようと悪意ある電話や訪問をしてゆきます……。

 偏執的な復讐心から人を破滅に導いてゆくエヴリンという女性像が圧巻です。いやらしいのはそれが犯罪というようなものではなく、醜聞や噂話といった一見ささやかにも思える悪意であるという点です。いわば等身大の悪意といった、程度の差はあれ身近にいそうな人物像であるため、生理的な不快感が非常に強く、生々しい印象が刻みつけられました。

 その悪意がついに事件に発展したあと、この作品最大の衝撃が訪れます。マーガレット・ミラーがエヴリンという悪人を圧倒的な筆致で描ける文章力を持っているからこそ、読者としては読んでいるあいだはそこに疑いを差し挟もうと考える余地などなく、きれいに衝撃を味わうことができました。

 莫大な遺産を継いだヘレンに、友人を名乗る謎めいた女から突然電話がかかってきた。最初は穏やかだった口調は徐々に狂気を帯び、ついには無惨な遺体となったヘレンの姿を予見したと告げる。母とも弟とも断絶した孤独なヘレンは、亡父の相談役だったコンサルタントに助けを求めるが……米国随一の心理ミステリの書き手による、古典的名作の呼び名も高いMWA最優秀長編賞受賞作。(カバーあらすじ)
 

  


防犯カメラ