『その雪と血を』ジョー・ネスボ/鈴木恵訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ1912)★★★★☆

 『Blood On Snow(原題Blod på snø)』Jo Nesbø,2015年。

 ポケミスなのに一段組の薄い形での登場です。映画化がすでに決定しているようです。

 七〇年代ノルウェーを舞台に、パルプ・ノワールを再現した作品、とのことですが、血と暴力というよりはファム・ファタルを中心にした甘ったるい純愛と裏切りの物語で、そのいい女っぷりと駄目男っぷりは戯画かと思うほどのコテコテぶりなので、ターゲットに一目惚れちゃうところまでは正直ゲンナリしてしまいましたが、そこから物語が動き出してからは、最後まで減速することなく一気に読ませてしまいます。

 そもそも主人公はただ単に惚れっぽいわけではなく、もともと優しすぎるのか弱すぎるのか何も考えてないのか、自分を殺そうとした殺し屋(の家族)に同情(?)を寄せるような人らしいのです。好きというよりは、弱い立場の人間を見ると正常な判断を下せなくなってしまうらしく、そうした主人公の現実の見えてなさが、終盤になってぽろぽろほころびてゆく過程が哀しみを誘います。

 オーラヴ・ヨハンセンは殺し屋だ。この数年間、麻薬業者のボスに命じられて殺人を引き受けてきた。今回の仕事は、不貞を働いているらしいボスの妻を始末すること。いつものように引き金をひくつもりだ。だが彼女の姿を見た瞬間、信じられないことが起こる。オーラヴは恋に落ちてしまったのだ――。葛藤する彼の銃口は誰に向かうのか。放たれた弾丸が首都の犯罪組織を大きく揺るがす……。雪降りしきる70年代のノルウェーを舞台に、世界で著作累計2800万部を突破した北欧ミステリの重鎮が描く血と愛の物語。(裏表紙あらすじ)
 

  


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