『奇想、天を動かす』島田荘司(光文社文庫)★★★★☆

 あまりにも強烈な作品ゆえに動機もトリックもはっきりと覚えてはいたのですが、改めて再読です。便山や主任のような絵に描いたようなクズ警官がいるから相対的に吉敷の身勝手が薄まっていますが、消費税殺人という動機に納得できないからという理由だけで単独行動を取り続ける吉敷にも違和感がぬぐえません。やはり組織と探偵というのはミスマッチなのでしょうね。

 犯人黙秘のまま、少しずつ情報が集まってきますが、事件が進展するだけでなく、中村刑事による吉原講義や、牛越による重大な手がかりなど、馴染みのキャラクターも顔を出してくることで、物語にいっそう厚みが生まれていました。

 ことに牛越からの電話は、作中作と現実がリンクする重大な場面でしたから、昂奮もひとしおでした。

 その後は次々とピースが嵌ってゆきます。個々の死体消失やアリバイトリックは古典的なのですが、蝋燭が燃えていた理由や歩きそして消える轢死体など、謎としての見せ方に島田荘司は天性のものがありますね。

 必然性から言えば「白い巨人」まで出す必要はないと思うのですが、出してしまうのが島荘の島荘たるゆえんでしょう。

 解決編で吉敷が口にする、「あんたの奇想が、天を動かしたのだろう」という台詞にはしびれました。

 しかし実際のところ、明らかになった真の殺人の動機というのも、何だか身勝手なような……。たとえ相手のことがわかったとしても、被害者も何で自分が殺されたのかわかんないでしょうね。

 浅草で浮浪者風の老人が、消費税12円を請求されたことに腹を立て、店の主婦をナイフで刺殺した。だが老人は氏名すら名乗らず完全黙秘を続けている。この裏には何かがある!? 警視庁捜査一課の吉敷竹史は、懸命な捜査の結果、ついに過去数十年に及ぶ巨大な犯罪の構図を突き止めた!――壮大なトリックを駆使し、本格推理と社会派推理とを見事に融合させた傑作!(カバーあらすじ)

  


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