『開化鐵道探偵』山本巧次(東京創元社ミステリ・フロンティア)★★★☆☆

 明治初期を舞台にした鉄道(の工事現場)ミステリです。

 元八丁堀同心が探偵役を務めますが、捕物帳をリスペクトしているわけではなく、明治期の鉄道を舞台に選んだ関係上、警察官ではない私立探偵ポジションであっても不自然ではない存在として元同心が選ばれたということのようです。

 工事を邪魔するのはなぜか――が最大の謎なのですが、下っ端が暴走するのはよくあることとはいえ、黒幕の黒幕が「駄目でもともと」と考えていては、事件自体が無意味でした。

 薩長の確執といった当時の世相や、銀山工夫と雇われ工夫のいがみ合いという現場の空気はこの作品ならではのものでしょうが、国民の利益と個人の利益の対立のような現代に通ずる問題にはあざとさやわざとらしさを感じてしまいました。

 登場人物のなかでいちばん魅力があるのが実在した井上局長でした。

 明治十二年晩夏。鉄道局技手見習の小野寺乙松は、局長・井上勝の命を受け、元八丁堀同心の草壁賢吾を訪れる。「京都―大津間で鉄道を建設中だが、その逢坂山トンネルの工事現場で不審な事件が続発している。それを調査する探偵として雇いたい」という井上の依頼を伝え、面談の約束を取りつけるためだった。井上の熱意にほだされ、草壁は引き受けることに。逢坂山へ向かった小野寺たちだったが、現場に到着早々、仮開業間もない最寄り駅から京都に向かった乗客が、転落死を遂げたという報告を受ける。死者は工事関係者だった! 現場では、鉄道工事関係者と、鉄道開発により失業した運送業者ら鉄道反対派との対立が深まるばかり。そんな中、更に事件が……。(カバー袖あらすじ)

  


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