『The Ebb-Tide』Robert Louis Stevenson&Lloyd Osbourne,1894年。
落ちぶれた三人組が人生の大逆転を狙って船ごと積荷の乗っ取りを企む物語です。
冒頭まず三人の落ちぶれぶりが描かれます。不健康にも祟られ、食べるものにも事欠いて、物乞いをしたり物語して慰め合ったり、それでも何となく安閑としていたのは、それ以上は落ちようがないところで身を寄せ合っているからでしょうか。
三人の運命の潮目が変わるのは、乗組員が天然痘で死んだ商船が寄港してからです。三人のうちの一人である元船長の発案で、三人は犯罪に手を染めることになるのです。
上げ潮になると人間は変わるものです。出航後まもなく、それまで隠されていた醜い部分が噴出します。元々悪人として設定されていたヒュイッシュはともかくとして、かつて自分のミスで船を沈めたデイヴィス元船長がまた同じ失敗を繰り返してしまうのは哀しいとしか言いようがありません。
ほかの二人が堕ちたことで、イギリス人紳士ヘリックの常識人たる視点で物語が描かれる形になりました。デイヴィスとヒュイッシュのぶざまな船上生活を見ていると、このまま犯罪に手を貸し続けるのか……という葛藤以前に、無事に目的地にたどり着けるのかどうかという不安が先立つ航海でした。
やがて食糧不足という窮地からたどり着いた孤島で、もう一人の登場人物が加わります。真珠採りをしているらしいアトウォーターは、慇懃無礼で心中もはっきりしない、明らかに怪しい人物でした。外界はもちろん三人とも相容れない、まさしく孤島の王たる孤高の存在です。三人の企みなどこうした存在の前では何の意味もありませんでした。
上げ潮に思えた決断に呑まれて、引き潮の真っ直中に放り込まれてしまった三人の、三者三様の人生観が晒されます。
南太平洋タヒチの浜辺にたむろする三人の食いつめた男たち。大学出のヘリック、商船の元船長デイヴィス、ロンドン下町育ちのヒュイッシュ――不運という絆で結ばれた三人は天然痘の発生で欠員が出た帆船の乗組員に雇われる。どん底からの脱出を願う彼らは、船を盗んで南米へ逃げ、積荷を売りさばこうと企むが、嵐に遭遇して早くも計画に暗雲が。さらにこの船には彼らの知らない秘密が隠されていた……。『宝島』の文豪スティーヴンスンが南太平洋の雄大な自然を背景に描く、冒険者たちの苦闘と葛藤の物語。コナン・ドイルが「お気に入りの海洋小説」に選び、チェスタトンやボルヘスも愛読した知られざる逸品。本邦初訳。(カバー袖あらすじ)