『キャプテンサンダーボルト』(上・下)阿部和重・伊坂幸太郎(文春文庫)★★★★★

 意外な組み合わせの合作は、意外なほどにエンターテインメントに振り切ったものでした。何しろタイトルとなっているキャプテン・サンダーボルトというのはオーストラリアに実在した義賊の通り名であり、主人公たちが子どものころ観たイーストウッド主演の映画『サンダーボルト』はギャングのお宝映画であり、主人公たちが子どものころ熱中していたのが『鳴神戦隊サンダーボルト』という架空の戦隊ヒーローものであることからもわかるとおり、わかりやすすぎるくらいのヒーローものなのでした。

 部屋の取り違えというコントみたいな展開から物語が始まったかと思うと、いきなり人が死んでぎょっとするのですが、そこから先はノンストップでページを繰り続けてしまいました。引け目を持った旧友との再会、そして成り行きまかせの逃亡劇といったロードムービーのような要素に、作中でも喩えられている『ターミネーター』の如き追っ手。彩りを添える犬と美女と心の師……。面白くないわけがありません。

 村上病をめぐる機密の真相がわりと見え見えなのは、これはそういうどんでん返しを狙ったミステリではない、ということなのでしょう。何せ二人は最終的には実際に日本と世界を救ってしまうのですから、ジャンルは何かと問われるなら、ヒーローものだと答える以外にはなさそうです。

 ※新潮文庫の新装版には付録短篇が収録されているようです。

 ゴシキヌマの水をよこせ――突如として謎の外国人テロリストに狙われることになった相葉時之は、逃げ込んだ映画館で旧友・井ノ原悠と再会。小学校時代の悪友コンビの決死の逃亡が始まる。破壊をまき散らしながら追ってくる敵が狙う水の正体は。話題の一気読みエンタメ大作、遂に文庫化。本編開始一時間前を描く掌編も収録!(上巻カバーあらすじ)

 謎の疫病「村上病」。太平洋戦争末期に蔵王山中に墜落した米軍機。世界同時多発テロ計画。これらに端を発する陰謀に巻き込まれた相葉と井ノ原は、少年時代の思い出を胸に勝負に出た。ちりばめられた伏線が反撃のために収束する、謎とアクション満載の100%徹夜エンタメ! 巻末に書き下ろし掌編小説を収録する。(下巻カバーあらすじ)

    


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