『龍の耳を君に デフ・ヴォイス新章』丸山正樹(東京創元社)★★☆☆☆

 手話通訳士である荒井を主人公にした『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』の続編。「騒ぐな、金を出せ」と脅して強盗を働いたかどで起訴されたろう者の裁判を描く第1話「弁護側の証人」、ろう者を狙うろう者の犯罪者集団の取り調べに呼ばれる第2話「風の記憶」、第1話・2話でも触れられていた殺人事件を描く第3話「龍の耳を君に」の三篇が収録されています。

 本書を大まかに分けると三つの要素に分かれています。ミステリ、主人公の人間関係、ろう者の実態、の三つです。さてこのうちミステリに関していえば、少なくとも第1話の“話せないはずのろう者が脅しを口にして強盗を働いたかどで逮捕された”という事件は魅力的です。ただしこの魅力は尻すぼみで終わります。物語は途中から、被告人であるろう者による、世間のろう者に対する無知への説教になってしまうからです。この部分に限らず全体的に説教臭さが鼻につきました。説教を生のまま放り出すのではなく、小説という形を活かしてほしかったところです。主人公の人間関係に関しては、前作を読んでいない読者には不親切すぎてさっぱりでした。

 ろうに関する誠実な現状描写と障害者を無意味に美化しないという当たり前のことができているだけでも価値ある作品だとは思います。

 手話通訳士の荒井尚人は、コミュニティ通訳のほか、法廷や警察で事件の被疑者となったろう者の通訳をする生活の中、緘黙症の少年に手話を教えることになった。積極的に手話を覚えていく少年はある日突然、殺人事件について手話で話し始める。NPO職員の男が殺害された事件の現場は、少年の自宅から目と鼻の先だった。緘黙症の少年の証言は果たして認められるのか? ろう者と聴者の間で苦悩する手話通訳士の優しさ、家族との葛藤を描いたミステリ連作集。書評サイトで話題を集めた『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』に連なる、感動の第二弾。(カバー袖あらすじ)

   


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