『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』マイクル・ビショップ/小野田和子訳(国書刊行会 ドーキー・アーカイヴ)★★★★☆

 『Who Made Stevie Crye? : An Novel of the American South』Michael Bishop,1984,2014。

 作家の使っているタイプライターが勝手に動き始める……モダン・ホラーのパロディというだけあって、なるほど確かにどこかで見たことのあるような内容です。

 エッセイストのスティーヴィ・クライは亡き夫に買ってもらったタイプライターが壊れたため、町の事務用品店に修理に出しましたが、戻ってきたタイプライターはスティーヴィが寝ている間に覚えのない文章を打ち出していました。寝ている間に潜在意識から自分がタイプしていたのか、タイプライターが意思を持ち出したのか……。

 はじめにタイプされていたのは、死んだ夫の出てくる夢の内容でした。癌で死んだ夫が宣告を受けた途端に生きる気力を失ってしまったことに失望し、その理由を知りたいスティーヴィは、それが悪夢とはいえ夢の続きを知ろうとします。悪夢にどっぷり浸かりに行ってしまう理由として充分でしょう。タイプされているのが夫や我が子に対する内容のため、自分の潜在意識が原因である可能性も担保されています。

 そうやって徐々に狂気にまみれてゆくのかと思い始めた読者に不意打ちを食らわすのが、二番目のタイプ原稿でした。日常から一気にホラーの世界に引きずり込まれてしまいました。

 ただしそれはまだ夜中に見た悪夢でしかないという救いがありました。けれど事務用品店の店員シートン・ベネックが自宅にやって来た瞬間、恐怖は現実のものとなりました。会話の通じない気持ち悪さが生理的に嫌悪を催させます。極めつけは猿に自分の血を吸わせる場面でした。この段階では悪意というより狂人の善意という怖さです。

 やがてスティーヴィはタイプライターと会話を始め、タイプ原稿と夢と現実の区別も曖昧になってゆきます。

 そこで救いになるのが占い師の存在でした。スティーヴィの狂気を後押しする単なるモブかと思いきや、エクソシストのような役割で活躍するとは思いも寄りませんでした。そのころにはいつの間にか、タイプ原稿に書かれたことが現実になる(少なくともスティーヴィの現実の記憶として残る)というのが法則となっているようでしたが、そうなるとそれまでのことがますます夢なのか現実なのかわからなくなってきました。

 最後には超常的ではあるけれど合理的な真相が明らかにされ、スティーヴィの夫が死を受け入れた理由も回収されていて、バトルと真相解明で終わるという点では意外とすっきりした読み心地でした。

 そういう契約なのかどうか、原書をそのまま翻訳したらしく、日本語解説や訳者あとがきはありません。

 アメリカ南部ジョージアの小さな町に住むスティーヴィ・クライは数年前夫を亡くし二人の子どもを養うためフリーランスライターとして生計をたてていた。ある日愛用する電動タイプライターが故障し、修理から戻ってくると、なんとひとりでに文章を打ち始めた! 妄想か、現実か? その文章はスティーヴィの不安と悪夢、欲望と恐怖を活写したものだった。それを読むうちに彼女は――そして読者も――現実と虚構の区別がつかなくなり……ネビュラ賞作家ビショップによる異形のモダン・ホラーにして怒濤のメタ・ホラー・エンターテインメント! 巻末に〈30年後の作者あとがき〉を収録。(カバー袖あらすじ)

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 誰がスティーヴィ・クライを造ったのか? 


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