『葬式組曲』天祢涼(双葉文庫)★★★☆☆

 政府により葬式が禁じられ、直葬が当たり前になった世界で、唯一葬式の伝統が残された県で葬儀社が執りおこなう葬儀の顛末を描いた連作ミステリです。

 デビュー作の『キョウカンカク』が素晴らしかっただけに、著者には過度な期待を持ってしまいます。それでいくと日本推理作家協会賞の短編部門候補になったという「父の葬式」は期待はずれでした。勘当同然で家を飛び出した売れないデザイナーが、杜氏である父親の葬儀に帰ってくると、なぜか父親の遺言により喪主は兄ではなく絶縁状態の弟だったが、生前の父親の言葉を伝え聞くかぎりでは和解するつもりとも思えない……不器用な親子による言葉では出来なかった交流が描かれ、架空世界の必然性もさほどありません。

 直葬が当たり前になった世界という設定が活かされるのが、「息子の葬式」で、架空世界を活かした狂人の論理が見事でした。

 最終話「葬儀屋の葬式」に至って、ぶっとび具合が火を吹きます。これまでの短篇群を揺るがす衝撃的な告発のあと、二転三転するアリバイ、容疑者、動機――その最終的な動機が弱いのがしっくり来ませんが、この最終話のためだけでも読む価値はありました。

 老舗酒造の杜氏である父親と衝突して、実家を飛び出した次男。七年後、父親の訃報にやむなく戻ると、「喪主はお前に」と不可解な遺言が残されていた。なぜ父親は、跡を継ぐ長男を差し置いて、次男に式を任せたのか?(「父の葬式」) 葬儀を省く「直葬」が主流になった国で、死者をめぐる「謎」に戸惑う遺族たち。――女社長・紫苑が率いる北条葬儀社の面々は、式を滞りなく進められるのか。気鋭の放つ傑作連作ミステリー。(カバーあらすじ)

  


防犯カメラ