『福家警部補の再訪』大倉崇裕(創元推理文庫)★★★☆☆

 福家警部補シリーズ第二集。第一話の切れ味が一番よかったため、やや尻すぼみな印象でした。「倒叙ミステリ」についての解説者の考察が腑に落ちます。
 

「マックス号事件」(2006)★★★☆☆
 ――豪華客船マックス号の船室内で、原田はかつて恐喝の相棒だった直巳を撲殺した。警棒でできた傷口に合わせウイスキーのボトルを振り下ろし、鞄からカセットテープを持ち出しデッキに落とした。まるで海に投げ入れようとしてデッキに落ちてしまったかのように……。原田の目論見通り、脅迫されていた社長の部下が証拠隠滅を計ったと見なされたが。

 豪華客船が舞台でどう福家が現場に現れるのかと訝っていましたが、完全にギャグで来ました。もともと神出鬼没の福家ですが、携帯で外部と連絡が取れるとはいえ鑑識もいない状況下です。だからでしょうか、犯人を追いつめたのは言い訳の余地がない決定的な証拠でした。証拠としては古典的なものであるがゆえ地味な印象を受けてしまいましたが、証拠の残され方や残された場所には意表を突かれました。それもこれもミスディレクションが鮮やかすぎるからです。冒頭の格闘シーンで、真っ赤なあれが割れてぶちまけられた場面の印象が鮮烈でした。
 

「失われた灯」(2007)★★★☆☆
 ――脚本家の藤堂はオーディションと偽って俳優志望のストーカー三室を呼び出した。藤堂は三室に誘拐ものの演技をさせてから薬で昏倒させ、古物商の辻に会いにいった。藤堂のデビュー作が盗作だという事実をネタに脅されていたのだ。辻を殺した藤堂は三室のところに戻った。誘拐の被害者だというアリバイを完成させるために……。

 パソコンの充電や電話機の指紋などは犯人自身による細かなミスですが、三室や辻がどのような行動を取るかまで読めなかったのもミスと言えるでしょう。完璧を期すのであれば、辻はともかく三室の行動は予想して〈脚本〉に組み込んでおくべきでした。翻せば、現実を遺漏なく完全に想定して計画を立てるのは不可能だということになります。この作品の犯人はかなり小細工を弄しているせいで、その分ほころびも多くなっていました。小さなほころびが多い割りに決定打の切れ味が鈍いため尻すぼみな印象を受けました。
 

「相棒」(2007)★★★☆☆
 ――ピンになって再ブレイクするには、師匠の命日まで解散は待てない。立石は解散を渋る内海を殺す決心をした。二十年前、隠れ場として、そして稽古場として購入した一戸建ての二階で、立石は待った。鍵をなくした内海は、いつものように松の木に登って二階までやって来た。「待てないんだよ。半年も」。内海もようやく気づいたようだ。「そうか」。突き飛ばされた内海の体が落ちていった。

 解散を認めない相棒や舞台上のミスなど、犯人の知らなかった事情が明るみ出ることで、犯人には(そして読者にも)見えなかった証拠が現れるとともに犯人の覚悟が決まるという構成によって、謎解きとも人情ものとも言いがたい作品になっていました。真相を知ることで見えていたものの意味が違って見えるという点では、愚直なまでにミステリです。
 

「プロジェクトブルー」(2007)★★★☆☆
 ――玩具の企画専門会社『スワンプ・インプ』も創立十五周年を迎えてますます盛況だ。十五年前におこなったレアな怪獣人形の偽造で醜聞に晒されるわけにはいかない。スワンプ・インプ社長の新井は、十五年前の詐欺をネタに脅迫してきた造形家の西村を殺し、自分のトラックに轢かれたように偽装した。

 これはさすがに犯人には運が悪すぎたとしか言いようがありません。確かに所持品を落としたのは犯人のミスですが、たまたま取り違えたのが決定的なものだったというのは偶然に過ぎました。けれどそれが逮捕の決め手になるのではなく、犯人の模型ファン心理に委ねる結末のおかげで余韻の残る終わり方でした。

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