『歌人紫宮透の短くはるかな生涯』高原英理(立東舎 リットーミュージック)★★★☆☆

 架空の歌人の代表作三十一首と生涯を振り返った評伝を丸ごと一冊作中作にした長篇小説です。脚註も入っていて本格的なのですが、短歌と評伝のあいだにつながりはほぼありません。著者がことさらに「歌の解釈自体とは別次元のことだが」等と強調するほどに虚しい。

 ゴシック以前の、中二病のおたくが如何にしてゴスになったのか、とでもいうべき内容でした。後半に行けば行くほど、紫宮というよりも作中作著者の中二度が上がってきて、紫宮を通した作中作著者の自分語りの様相が強くなってきます。何を選択し何を捨てるか――というところに編者・評伝作者の我が出るのであればこそ。

 短歌も自作なのだから解釈も何もないのですが、幻想短歌/小説の成立をひもといたような「したたるる」の歌の項や、評論家の解釈の恣意性を自覚したような「るるる」の歌の項などは興味深かったです。

 紫宮透とは、誰なのか。1980年代に彗星の如く現れ、突如姿を消した天才ゴス歌人。その謎に満ちた生涯を、彼の作品と関係者の証言で追う、異色の伝記小説。(帯惹句より)

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